金井喜久子「琉球綺想組曲」(ピアノと8つの楽器のための)、
「ピアノ五重奏曲」浄書スコア、パート譜完成  (2008.10/更新)

 金井喜久子のピアノと8つの楽器のための「琉球綺想組曲」と、「ピアノ五重奏曲」の浄書スコア・パート譜がこのほど相次いで完成しました。
ピアノと8つの楽器のための「琉球綺想組曲」は、これまで「八重奏曲」の通称で呼ばれて来ましたが、長らく楽譜の所在が不明となっていました。しかしこのたび奇跡的に発見され、ただちに演奏のための浄書楽譜が作られました。
曲の編成はピアノの他、木管四重奏 (Fl. Ob. Cla. Fg.)と弦楽四重奏 (2Vn. Va. Vc.) の計9名の奏者のために書かれています。現在のところ作曲年代は不明ですが、「ピアノ五重奏曲」と同様、N響メンバーのために書かれたものと推測されます。(この曲は金井喜久子の一周忌に演奏された記録が残されています) 曲は第1楽章「巫女の踊り (のちに管弦楽に編曲)、第2楽章「若人の踊り、第3楽章「入船」の3楽章から成っており、金井作品の中でも特に沖縄色の強い作品、と申せましょう。
 また「ピアノ五重奏曲」は、「琉球綺想組曲」とともに金井喜久子の室内楽曲を代表する作品で、作曲グルーブ「白濤会」作品発表会のために作曲され、1951年 (昭和26年) 4月12日に内藤芳枝のピアノ、日響メンバー によって初演されました。その後、1966年6月、N響メンバーによるアメリカ文化センターホールでの演奏会(NHKラジオで放送) や、2001年12月27日に虎ノ門JTアートホールで行われたアフィニス文化財団による「日本の戦後音楽史再考」レクチャーコンサート(企画/高久暁、片山杜秀) で再演されています。(ピアノ/御室美佐子、ラ・ミューズ弦楽四重奏団) 最近では2007年7月に沖縄県浦添市てだこホールで行われた金井喜久子生誕100周年記念コンサートin 浦添で外間三千代のピアノ、沖縄交響楽団メンバーによる弦楽四重奏団により初めて沖縄で上演され、大好評を得ました。その一年後の2008年8月、今度は名古屋で西尾由希のピアノ、名フィル・メンバーによる弦楽四重奏からなる金井喜久子・メモリアル・アンサンブルで演奏され、好評を得ています。
 曲は全3楽章からなり、沖縄の五音音階 (ドミファソシ) による旋律が、西洋音階の三度を基調としたハーモニーと見事に融合しており、テクニカルでありながら叙情的なピアノの彩りも効果的で、独自な音世界を産み出す事に成功した傑作です。第1楽章で静かな序奏の後突如現れるリズミックな主題はすでに沖縄そのもの。中間部のポルタメントを効かせた旋律が、得も言われぬ美しさを醸し出します。チェロの内省的な主題で始まる第2楽章は、金井作品には珍しい本格的なフーガで、中間部では全員のピツィカートによるアッチェランドも聴きどころです。第3楽章は全曲中もっとも沖縄情緒に満ちており、喜久子は後年この楽章を「豊年踊り」というタイトルで管弦楽に編曲しています。そのダイナミックで明朗溌溂とした音楽は、三線片手にひたすら踊りまくる沖縄の人々の見事な描写と言えるのではないでしょうか。


金井喜久子/これまでに浄書譜が作成された管弦楽作品一覧

 (タイトルをクリックすると、スコアの譜例を見る事が出来ます。)

・ 交響詩曲「琉球の思い出」 (1939)

( Picc.-2-2-C.Ing.-2-2, 4-2-3-1, Timp, S.D, B. D, Cymb, Cast, Str. )
 金井喜久子が管弦楽のために作曲した、初めての作品。当時「低俗なもの」と偏見を持たれていた沖縄民謡を積極的に取り入れており、「鳩間節」「むんじゅる」「かなよー」の3曲のテーマを見事に組み合せるなど、多彩な管弦楽法が駆使された、作曲者の大いなる意欲が伝わる佳曲。その初演は大好評であった、と伝えられている。


・ 交響曲第1番ハ短調 (1940)

( 2-2-2-2, 2-2-2-1, Timp, Str. )
 女性作曲家による交響曲としては日本で初めての作品。1940 (昭和15) 年12月20日に日比谷公会堂で行なわれた「呉泰次郎及びその門下生第4回交響作品発表会」において、作曲者自身指揮する中央交響楽団 (現・東京フィルハーモニー交響楽団) により初演された。
その実況録音がアセテート盤で奇跡的に残され、数年前にCD化され話題を呼んだ。なお初演時は第1〜3楽章のみであったが第4楽章のピアノスケッチも残されており、現在照喜名一男氏により編曲が進んでおり、全4楽章が初演される日も近いのではないか。


・ 交響的序曲「宇留間の詩」 (1944/52改訂)

 ( Picc.-2-2-C.Ing.-2-B. Cla-2-C. Fg, 4-3-3-1, Timp, Kl.Trommel, Tri-Ing, Gr.Trommel, Becken, Tam-tam , Hp, Str. )
 「宇留間」とは、沖縄の古語で「うる=砂,ま=島」の意。1946年の「梯梧の花咲く琉球」と同じ宮古島の民謡を用いており、「梯梧…」の先駆的な内容を持っている。 2007年7月、沖縄交響楽団により50年振りに再演された。

・ 琉球舞踏組曲  (1944/81)

 ( Picc.-2-2-C.Ing.-2-B. Cla-2-C. Fg, 4-3-3-1, Timp, Tamb, Sus. Cymb, Cymb, Piatti, Tri. Ing, 〆太鼓, 大太鼓, 四つ竹, Xylofono, Glocken, Celesta, Marimba, Bongo, Gong, 三味線, Hp, P, Str. )
 1.月夜の踊り, 2.むんじゅる笠, 3.鳩間島の踊りの、3曲からなる組曲。後年の「沖縄綺想組曲」に比べ、より素朴な味わいがあるが、これは沖縄独特の楽器・三線を使用していることと無縁ではないだろう。沖縄の地方色を満喫出来る、思わず身体を動かしたくなるような、活き活きした音楽。

・ 交響詩曲「梯梧の花咲く琉球」 (1946)

 (2-2-C.Ing.-2--2-, 4-2-3-1, Timp, Tamburin, Piatti, Cymb, G.C, 〆太鼓, 日本太鼓, P. Str. )
 1947年、日比谷音楽堂において、戦渦に傷ついた沖縄の人々を励まそうと、「沖縄音楽と舞踊の集い」というコンサートが催された。この作品は、そこで初演されてた以来、再演される機会もなかったが、2005年、愛知県の海部交響楽団というアマチュア・オーケストラにより、実に60年ぶりに再演され、翌年の愛知芸術文化センターにおける「金井喜久子生誕100周年記念コンサート」実現へと繋がった。沖縄の澄み切った青い空と海が瞼に浮かぶような、金井喜久子を代表する魅力的な作品。

・ 交響曲第2番 (1947)

 (3 (Picc.)-2-2--2, 4-2-3-1, Timp, Triangel, Kleine Trommel, Piatti, Cymbal P. Str. )
 1940年、金井喜久子はプロの女性作曲家としては、日本で初めてとなる「交響曲」を作曲した。その「第1番」は、東京音楽学校の当時の作曲の師であった呉泰次郎の指示によって、日本的・民俗的な要素を悉く排した、前期ロマン派風のものであった。
「沖縄の民謡を取り入れた管弦楽曲を書きたい」という、自らの内的欲求に突き動かされた金井は1947年、単一楽章の「交響曲第2番」を作曲する。「第1交響曲」の出来映えに不満を抱いていた金井が、この「第2交響曲」では、自らの思うままに、書きたかったテーマを歌いあげている。

・ 沖縄綺想組曲  (1974)

 ( Picc.-2-2-C.Ing.-2-B. Cla-2-C. Fg, 4-3-3-1, Timp, Glock, Xylofono, Vibrafono, T.M, 〆太鼓, Cymb, Sus Cymb, S.D, G.C, Gong, 大太鼓, 銅鑼, Hp, Str. )
 1.巫女の踊り, 2.豊年踊り, 3.空手の3曲からなる沖縄民俗色溢れる組曲。 
 それまでになく多彩な打楽器群を用い、またオーケストレーションもレスピーギ等の影響を受けより多彩な色合いを見せるようになった、金井喜久子の管弦楽作品を代表する傑作。「空手」では無調的な世界にまで踏み込んでいる。近年沖縄交響楽団等によって、たびたび再演されるようになった。


これらの作品の浄書譜に関しては、真剣に演奏や作品研究を検討していただける方に限り、お問い合わせに応じております。 
お問い合せはこちらまで。