Hotel California

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砂漠を通るハイウエイは、暗かった。
ドライブを楽しむ僕の髪を涼しい風がなぶっていく。
むせるようなコリータスの香りが、あたりに立ちのぼる。
前方にチカチカするネオンの輝きが見えた。
なんだか頭も重いし、眼もかすむ。
・・・泊まっていった方がよさそうだな。

ドアに立っている彼女に気が付いた時、教会の鐘の音を聞いた。
それで僕は思ってしまったんだ。
このドアから天国が始まるのか、それとも地獄へ向かうのかってね。
彼女はろうそくをともし、僕を奥へと導いてくれた。

すると回廊から、声が降ってきた。
それは、こんな風だった。

ホテル・カリフォルニアへようこそ
素敵なところですよ
素敵なひとばかり
ホテル・カリフォルニアでは
部屋は充分にご用意してます
一年中いつでもございますとも

彼女の心は、あのティファニーの、
ハートペンダントのようにねじれてる。
持っているメルセデスもベンツというより、
ベンズ(注:曲がるという意味)って感じ。
それから、可愛い好青年を何人もまわりにはべらせて、
「みんな、おともだちなの。」、だそうだ。
中庭で、甘い夏の汗を浮かべて、ダンスに興じる彼ら。
踊り続けてる、・・・ある者は思い出すために。
ある者は・・忘れるために。

それから僕はキャプテンを呼んで、
「僕にワインをくれ。」って注文してみたが
「1969年からここにはそのようなスピリットはありません」
(注:ワインはスピリット=蒸留酒ではありません)
・・・なんて言われてしまう有様さ。
そしてはるか遠くから、あのささやきが聞こえてくる
真夜中にゆり起こすかのように・・ それは、こんな風なんだ

ホテル・カリフォルニアへようこそ
素敵なところですよ
素敵なひとばかり
ホテル・カリフォルニアをごひいきにどうぞ
うれしい驚きなんですよ
お客様、あなたがいらしてることが・・。

天井は鏡張り、氷の上にはピンクのシャンペン
彼女がささやいた。
「わたしたち、みんなここの”虜”なのね。
そう、望んでこうしているのよ。」
支配人の部屋に集まって、宴を楽しむ彼ら。
ごちそうをざくざく刺すナイフさばきは見事だけど、
自分たちで獣を狩ることなど、できないヤツら。

僕が、最後に覚えていることは・・・
そう、ドアへ突進していったことだ。
元の、自分の世界へ戻る道を捜さねば、と・・。
「どうか落ち着いてください、お客様。」と夜番が言った。
「我々は、すべて運命を受け止めるように定められているのです。
お好きなときにチェックアウトは出来ますが、
ここから逃れることはできないんですよ・・・。」

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イーグルスと言えば、というほど有名な曲。これもまた大好きなD.ヘンリーがヴォーカルです。
ちょっとスリラーめいた歌詞と、和音をフーガのように奏で続けるエンディングのメロディ、バックのベース音も実に効果的なんです。
HP名の候補にしたんですが、ちょっと恐ろしすぎて誰も来てくれなさそうで(笑)。

この『ホテル・カリフォルニア』というアルバムで、イーグルスにひとつの区切りが来たなって気がしました。
(ですから、これ以降のイーグルスの曲については、私は何も知りません。)
都会的なサウンドをみごとに昇華させている曲も多い中で、悲しい不協和音を感じたのです。
それは、『アメリカという国家の方向性への批判』です。
開拓者精神を忘れたアメリカ。・・手を汚さず、ゴージャスを最上とする都会人たち。
アルバムの「ラスト・リゾート」という最後の曲でも、似たような感じが出てくるのです。
果てしなき欲望と血なまぐさい行いを、神の名で正当化することに疑問を投げかけて・・・。 「これが『パラダイス』だって?訳わからんよ・・。」と。
そう、ともかく宗教も政治も、私には分からない。
そして私はまた1枚目から聞きながら、夢を見てしまうのです。
田舎者でいいさ。すりきれたジーパンでいいじゃないか。
青空の埃の元で、安っぽい酒とこげたベーコン、それに笑い声と皮付きポテトがあれば最高!って気がするので・・・。

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