「100年の不作」

〜もし、ザエボス・ローゼンバッハに”bitterhalf”(奥さん)がいたとしたら?〜

献辞:  この小文は、2つものTOP絵を贈ってくださった、ザエボスファンのくにたんさんに謹んで捧げます。 ・・・こんなのでスミマセン(笑)。

 「明日は、・・・ブリガンテス城での戦闘になるかもしれない。・・・一応、覚悟をしておけ。」

 シリアスに言いきった自分の横顔が寝室の窓ガラスにぼんやり映った。夜の闇を背景に室内の灯りに照らされている精悍な男の顔。
 悪くない面構えじゃないか。・・・参りきって憔悴しきっているんじゃないかと、内心自分でも心配していたんだが。
 ガルガスタンの兵をかき集め、ようやく取り戻したコリタニ城をウォルスタ解放軍ならぬ、あんな若僧に奪われてしまうとは・・・考えも及ばなかった。だが、まだまだやれるさ。ガルガスタンの崩壊に乗じて、ハイエナのように汚く襲いかかって来ようとな。
 そうだ、ちょっと自分でも惚れ惚れする男っぷりは未だ健在じゃないか。隊の担当者からつねづね、「ちょっと太めの鎧はもうあまり在庫がなくて・・・。あの、申し上げにくいことですが・・。」と注意されていた腹が若干気に入らないが・・。いや、これも人間の厚みだよ。ふん、三十路男の貫禄というものが分からん輩には、話してやってもムダなのだ。それに、若いもんにあまり小言を言うのも何だか大人げないしな。

 傍らの妻は、肩を震わせてうつむいている。かすかに「・・・いやですわ。」と呟いたように見えた。・・・泣いているのか、哀れな・・・。よほど怖い思いをしたのだろう。
 ウォルスタ解放軍に襲われた際に、城下の館からようやく助け出された妻は、最初自分を面罵したのだ。
あれには参った。ふだんの妻のおしゃべりの数倍のパワーの放出だった。
民衆の怨嗟なんか、あれよりず〜〜〜〜〜〜〜っとましだ。
あのげんなり効果は、普通の魔法などよりず〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと・・。

 最初は腹が立った。が、無理もない。無理もないのだ・・とすぐ思い直した。
妻は、苦労知らずのお嬢様育ち。ちょっとワガママなところもあるが(ま、まあ、多々あるが)、両親から大切に育てられ、男の仕事のハードボイルドな一面など知らなかったのだからな。現に、コリタニ城を乗っ取った時は「・・・私って、まるで城主夫人のようね。」と顔を輝かせていたのだ。
 「不謹慎な。」と注意をしてやったが、「あら、貴方の実力なら、当然よ。・・・私、ずうっと貴方は凄い方になるわって、そう思っていたの。」とコロッと意見を変え、潤んだ瞳で自分を見つめていた。「本当よ。」と小首をかしげて、唇をとがらせるところといったら・・・。
 いや、あの夜は・・・ふふっ、久々に燃えたな。妻も・・・、ま、欠点はいろいろあるが、いとおしい。アノ時は、ふだんのおしゃべりとは違う、呟きを、溜息を楽しめるし・・。
 そう、まだまだオレはやれるさ・・。傍らの桃色の薄絹の寝衣をまとった妻の折れそうな肩、細いうなじを見つめる。アイツを殺ったら、今度こそウォルスタ解放軍だ。主君の仇を晴らす前祝いの祝砲といこうか。
 あの青二才め、虐殺の首謀者のお尋ねもののくせして、「私利私欲で戦っていない。」なぞとほざきやがって・・・正義感ぶりやがって。
 気にくわない。サラサラヘアーの英雄が何だ!
 オレだって、よく見ろ、サラサラヘアーなのだッ!!
 若さには負けるが、若い純粋さが何だってんだッ!!!

 妻はまだうつむいている。可愛がってもらいたいと夜の化粧に励んでいるのか?
「心配などしなくていい。」と貝殻のような耳たぶにささやいてやろうか。あの青二才は、明日きっと来る。だが、勝つのはオレだッ!
エセ人道主義者め・・・楽に死なせてやるものか・・たっぷり可愛がってやる。だが、まず今夜はパワー全開で妻をたっぷりっ・・!?
「う、うわぁっ?」・・・そこで思考は停止した。
 抱き寄せられて顔を上げた妻が、道化の面のような顔になっていてギクっとしたのだ。

「いやん、ずれちゃうッ。・・・もういきなり引っ張らないでよッ!」いきなりの怒鳴り声だ。
「ど、どうしたのだ、その顔・・?ボ、ボク、何かした?」ザエボスは、なだめにかかる。
「これね、新しいお化粧法なの・・・。肌がきれいになるんですって。だって、もう私・・・。ね、私、老けたわよね?」
「いやっ、全然!すごくキレイだよ・・・!」
「・・・もう色香も失せて・・・魅力なんて・・・。」
「そんなこと、ナイナイ!・・・皺だって、魅力のうちって・・・」
「何ですってぇぇぇっ」形の良い眉がつり上がる。・・・セ、セリフを間違えたようだ・・。
「し、皺なんか1本もないよ、もうほら10代の少女みたいだよっ!!!」
ザエボスを睨んでいる瞳がちょっとゆるむ。こ、これだ、もう一押しッ。
「本当だよ・・・君は愛くるしい。まるで花のつぼみのようだッ!」
「本当?」・・・くぅ〜、この聞き返しの声が可愛いんだよなぁ。

「本当だとも。」男らしく響いただろうか。とにかく機嫌をなおしてもらわないことには、『夜』は始まらない。
「じゃ、”英雄さん”も、私のこと、お姉さんのように見えちゃうかしらね?」(お暇なひとは、ここでキャイキャイと擬音を出来るだけの高音で叫び、両手をきゅっと胸の前で合わせてみましょう♪ぼ〜っとこんな文章を読んでいるより少しは楽しめるかもしれない、ぶりっこポーズです。かつ若干カロリーを使えますので、運動不足の方はぜひ。)
「へ?」
「ねぇねぇ、明日来るって、カレのことなんでしょう?ゴリアテの少年英雄さん♪」
「・・・・」
「先日は、ウォルスタ解放軍だと思ってたから、私見逃しちゃったのよね〜。ハンサムなんでしょ?」
「・・・・」
「誰にでも優しくって、純粋な理想を掲げてて、サラサラヘアーでナイーブなんでしょ?」
「・・・・」
言うまい。ボク、じゃなかった、オレだって、サラサラヘアーでナイーブなんだと言ってやりたいが、反応が怖い・・・じゃなかった、言ってもムダだ。

 このあとは、延々2時間ゴリアテの英雄の素敵なところ(は・あ・と)♪を聞かされっぱなしになり、予定していた祝砲は不発に終わった。(いや〜、本当に筆者も残念です。八百屋ってヤツも真っ青の、すごいラブシーンを書こうと張り切っていたのですが(^^ゞ。)

 妻は、以前「あなたってば、無口で、つまんな〜い。」などとのたまわったが、この妻のトークの早さにはついていけない。論理もなくて、興奮している時はどのように息継ぎするか分からない位、ずうっとしゃべるのだ。
 ・・というわけで、翌朝のザエボスは寝起きが最悪だった。かろうじての昨夜の成果と言えば、ゴリアテの英雄と呼ばれたアイツがなぜ、解放軍に追われているかの理由がようやく分かったことだった。
 公爵だけじゃない、オレはあんなヤツ、大、大、大嫌いだっ!
 アイツだって、30過ぎたらオジサン、50過ぎたら、ジジイになるんだ、絶対に!!
心の中で、呟きたい、どころじゃない、叫びたい言葉が渦を巻いている。

 いいか、ゴリアテの英雄だけじゃない、30前のやつら、よく聞いて置け。
オレは言いたい!・・・オレは無口なんかじゃない。30を過ぎたばかりだが、管理職ともなるといろいろ深謀遠慮ってものがあって、言いたいことのひとつ二つは本当はあるが、我慢をしているのだ。全てお前らのためだ。肉の厚みは(お前らも30になったら、よ〜〜っく分かるだろうよ。)、加速するんだ。おまけに、増えた肉は垂れる。

 妻よ、よく聞いて置け。
ボク、じゃなかった、オレはたしかに若くない。 手も汚した。だが、純粋だぞ。あいつのように『きれいごとを語り、美味しいところだけを盗む』なんて出来ないほどの純粋さなのだ。『理想や正義をちらつかせる』そして、さわやかな笑顔でニコッとなんて恥ずかしくてできない、まるでミニバラのリースのようなピュアさなのだ!!

 腹の中でくだを巻いているだけじゃ、まるで本当におっさんだな。かと言って話せばうざいし、聞く方もうんざりするだろう・・・。
 ザエボスは考えた。このうんざり効果は、普通の魔法などよりず〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと・・。
 そうだ、アイツにオレの鬱憤話を聞かせてやろう。男の哀愁を教えてやってから、殺してやるのも親切かも知れないな。うんざりするほど、たっぷり聞かせてやろう。

 ―――「遅かったな、デニム。待っていたよ。」
ザエボス・ローゼンバッハは、心底そう思っていた。
ピクッときれいな顔の少年が先日と同じようにまっすぐこちらを見た。確かにコイツなら、素直にオレの話を聞いてくれそうだ。 笑みがこぼれてくるのを、オレは抑えきれるだろうか・・。


後書き:
 『100年の不作』というのは、”悪妻は、100年の不作である。”ということわざからとりました。”こんな不甲斐ない作品は100年に一度だよ。”という意味ではありません。100年に一度でなく、いつもです(涙)。いや〜、ラブラブのカップリング小説を書こうと思い、Cルートで一応書きはじめてみました。本日ザエボスのお誕生日(2/22はニャン♪ニャン♪ニャン♪の日)なので、ザエボスファンに捧げようと、主役を彼にしたんですが・・・。ダメじゃん(爆)。架空の設定なので、怒らないでくださいね。
 ”bitterhalf”というのは、”betterhalf(よき片割れ、伴侶の意)”の誤字ではありませんよ、そのなれの果てというあちらの冗句です。だんだん年数を経る毎に苦くなってくるんだって(苦笑)。文章中にはモデルはありません(念のため)。 
 作成の動機は、デニムなりきりで対戦している第一回目の攻略時の、
「なんで、このオッサン(すみません)、セリフが長いんだろう??」「なんで”くっくっくっ”て笑ってるんだ??」からです(笑)。すでに筆者はザエボスより年上なんですよ(涙)・・ああ、皺が小皺がッ(自爆)。
 ”ミニバラのリース”が唐突に出てきますが、ドイツ語でローゼンはバラだし、バッハは小川だと思いましたので、”バラの疎水”を想像しまして。ロマンチックなザエボスの名字に、ほら愛くるしいミニバラがあなたの脳裏にサラサラと流れてくるでしょ?(笑)。
追加の後書き:2003.JAN
文中、”八百屋ってヤツも真っ青の、すごいラブシーン・・・”という表現が出てきますが、いわゆる”や○い”という言葉に対応して洒落たつもりでした(笑)。
そうしたら、”や○い”というのは、○モのことなんですってね?!(驚)・・・ヘテロというか、ノーマルLOVEにはつかわないらしい用語でした。書き直すべきか??う〜〜ん悩み中(^^ゞ