「・・・このような別れが来るとは・・。」と、ランスロットは言った・・・。 私は、ただ黙って窓際で夜空の月を眺めていた・・・。 この地で見る月は・・・これが最後かもしれない。 あなたのそばで・・・あなたの深くて優しい声を聞くことができるのも・・。 「・・・やはり・・・私が王に進言しよう・・・! マラノの都で多少の行き違いがあったにせよ、あなたは皇子であったトリスタンをないがしろにしようとしていた訳ではないのだ。 もしも王に判っていただけなければ・・・構わぬ、私もゼノビアを・・!」 ランスロットの、いつもとは違う声に私は・・・ようやく、気持ちが定まった。 ここ数日の気持ちのわだかまりも、何だか晴れた気がする。 私は、努めて明るく振り向いた。 「あら、それはダメよ!・・・だって、貴方にはこれから騎士団長としての役目があるのよ?」 騎士ランスロットは、明らかにとまどったようだ。 私が泣いていると思い込んでいたのかもしれない・・・。 「・・・意外と、いや、・・・あなたが・・かなりつらい思いをしているだろうと・・・いや、ともかく・・平和になってからというもの・・・」 あなたは、まっすぐな瞳で私を見つめながら、私を傷つけまいと言葉を選び、選びすぎて困ったような表情を見せる。 あなたはずっと優しかった・・と、私はあらためて思う。いろいろな噂を聞いて、陰ながら心を砕いて私のことを心配してくれていたに違いない・・。 ―――トリスタン皇子と側近の貴族たち・・・はまだ、良かった・・・少なくとも身をもって戦争を体験してきたのだから。 しかし、戦乱を避けて国から離れていた貴族たちは、悲惨な戦争の傷跡から、ことさら目をそむけたがっているようだった。 「あれが、その・・・先の・・・リーダーですってよ。」 「おお、怖ろしい・・・・あの白い腕や手には・・・今でも滅ぼされた者の血の痕が浮かぶのですって。」 「あのようにしていると・・ただ、普通の女性に見えますでしょう?でも・・・とても言えないような殺戮を・・ね、きっと精神が普通ではないのですわ・・・。」 「しっ・・・。どのような仕返しがあるか分かりませんですぞ。」 「殺すのがお好きでお上手なら、今度は野鳥を獲ってきていただけばいかがかしら?最近ではおいしい鳥のパイを料理人に作らせようにも・・ねぇ・・・。」 哄笑が、嘲りが、陰で表で、そっと、あるいは聞こえよがしに囁かれていた。 ウォーレンにたしなめられるまでもなく、私は全部無視していた。 どうせ、すぐにおいしい料理やご領地のこと、お化粧やドレスの話をすれば、反乱軍や私のことなど忘れてしまう人たち、・・血まみれの怪我人、瀕死の者の目を覗き込んだこともない人たち・・。 腹を立てる気にもなれず、次は何を言い出すのだろうかしら位に私は思っていたのだ。 私が本当につらいのは・・・あなたが私を誉めてくれない時の・・・あなたの表情、あなたの言葉だけ・・。それから・・・。 ふいに、ランスロットが私を抱き寄せる。ちょっと唐突で、急をつかれて・・・私は呼吸もできない。 「・・・ああ、あなたを壊してしまいそうだな、私は。」と、自分の強い力になかば呆れたように苦笑して、すぐに力を緩めてくれる。 あなたの心臓の鼓動を感じながら、以前見た夢を私は思い出している。 柔らかな瞳で私を見つめて抱き寄せてくれるランスロット・・・私はあなたに体重を預けて安心しきった表情で瞳を閉じる・・。 それから・・それから・・? ・・私は、私でなくなってしまうの? ・・・そんな気持ちがして・・・私はとても怖くなる・・。 あなたを愛し、あなたのためにお化粧してドレスを着て・・あなたの立場を考えて社交的に振る舞い、無意味に微笑んで・・・血なまぐさいことを避けて可愛い声をたてて・・・。 想像しただけで、目眩がしてしまう・・・。 あなたを愛してしまった時から、私は自分が弱くなってしまうのを感じていた。 あなたの腕を感じていないと立っていられない『女』になるのは、やっぱりいやで・・・。 そして・・・『男』としてのあなたを考えるのが、怖い。 そんなこと、うまく説明できなくて・・・私はただ震えて・・身を固くしているだけ・・。 あなたの手はさっきから、私の髪をただ優しくなでている。 私は、涙が出そうになるのを我慢して・・・それからちょっとあなたの力に抗うようにして、窓の外の・・月を見上げる。 「美しい・・・三日月だね。」耳元で声が響くのが、何だかくすぐったい。 恋の虜になった乙女の弓のように、しなやかにたわむ月の形。 でも、月は・・。 三日月は・・・その美しい姿を輝かせながら、多くの暗い影を隠しているだけなんだと・・今の私は知っている。 私は、ランスロットに自分の暗い影の部分を見せることなんて・・とても出来ない。 だってあなたは、私の騎士であると同時に私の聖域(サンクチュアリ)だったから・・・。 頬をすべってきたあなたの指が、私の涙の粒に触れて・・驚いたようにそこで停まる。 そして力を緩めてくれるあなたの優しさが、本当は少し悲しいのだけれど。 月は欠けていき・・もうすぐ、新月になる。 もしもひとつだけ、願いが叶うとしたら・・・。 願わくは、月の光のない闇の中でも、あなたの・・静かな白銀色の輝きを思い出せますように。 後書き: ゆいさんのサイトでプレゼントのあるゾロメ番号でもないのに、「6262ってムフムフ♪」なんて訳の分かんないことを掲示板に書きましたら、素敵なイラストを描いていただき、その感激をずっと文章にしてみたかったのでした。 このイラストのように、愛の美しさを称えるような素晴らしいロマンチックな文章を書いてみようと思ったのですが・・・何だかまた”未遂”に終わってしまいました・・(自爆)。 『伝説のオウガバトル』のMOONエンディングを念頭に書いております。 このエンディングは主人公が女勇者であり、最後にトリスタンが仲間にいない、三神器が足りないという場合に発生するらしいのです(実は、作者は未体験です)。そしてトリスタンが王になってゼノビアを統治し、女勇者は”別天地で活躍せよ”ということでゼノビアを出ていく・・。その彼女には硬骨の老騎士アッシュもしくはランスロット様がついてきてくれるというエンディングです。 私見としては、ランスロットにはついてきてくれるより、聖騎士団団長として活躍してほしいので・・こういう風に設定しました。 ・・・恋が叶うという願い事を呟かないのは、はっきり言って可愛くない女と思われるかも・・?(笑) |