Two of Swords


   〜 剣 の 2  Normal Position(正位置) 〜

  『・・・カードに描かれている人物は、たった一人だ。目隠しをされた状態で剣をかざしている人物。その影が、湖水に映っているのだった。
 現実の剣と映った剣とで、2本の剣を表しているのだった。(文中より抜粋)』


 ☆ 行き詰まり

 ☆ 相談する人がいない

 ☆ 二重人格

SMACさまの素材です♪


「ここなら、簡単に見つからないはず。」
「落ち着くのよ。落ち着かなければ。」
涙とほこりにまみれ、逃げ込んだ部屋で彼女は、自分に言い聞かせる。

身体は、小刻みに震え続ける。
頭の中では、暗黒騎士ランスロットの声がこだまするようだ。

「いいから私の言うことを聞けッ!さっさと奥へ逃げるんだッ!!」

緊張したタルタロスの声など、初めて聞いた。
そう、とても強くなったのね、デニム。
あなたの軍は今や、すべての人がおそれるほどの軍隊なのね。数日前にも、近隣から集められた下働きの者たちが、うわさをしていたわ。

・・・・「ゴリアテの英雄殿は、ヴァレリア全土の平定に意欲的だとよ。」
「田舎のバーニシアにまでは、来るめーよ。」
「全土っつったら、ここも当然平定されちまうに決まってら。」
「平定って、何すんだべ?」
「そりゃ、邪魔者は皆殺し。役立つ者は召し抱え、美女はもちろん自分のモノにするのよ。」
「まずは、司祭様と戦うんだろなぁ。」
「いやいや、俺っちが英雄殿なら、まず政略結婚を・・・・・・」
・・・・・いじわるな、無責任な噂・・・・

デニム、いったい何をするために、ここまで来たの?
私がゴリアテに戻ったときは、知らぬ顔で放置していたはずでしょう?あなたにとっての、他の離反者と同じように・・・。
そう、タルタロスは言っていたわ。
ひとりひとりの感情など、理想の国づくりの前には小さいモノだと。
勝者の論理は、いつも同じ。傷ついたものの心など、おかまいなしにね。

剣のぶつかりあう音がここまで、聞こえてくるよう。
どうなるかなんて、考えたくない。
ふらふらと奥に進む。
ぼんやりと人影が立ちはだかったので、思わず立ちすくんだ。

だが、それは、ほこりまみれの鏡だった。
くすんだ真鍮にふちどられた、姿見。
自分の姿が霞のように、映っていたのだ。
ホッとして、無意識に表面のホコリを払った。
でも、自分の顔など今は見たくない。
青ざめた顔、血の気を失った唇がきっと映っているのだろうから。
鏡の中の自分も、こちらを正視できないかのようにとまどっている気がする。

ベアスさんの描いた『剣の2』カチュアVer. 雲間から太陽がでたせいなのだろうか。
いきなり鏡の中がキラッと光ったので、思わず鏡を見つめた。
護身用にと渡された、バルダーダガーを構えた自分の姿が映っている。

以前、どこかで見たような姿・・・?
・・・これは、あの時、流浪の占い師が言っていた、{剣の2}のカードの絵だわ。
そう、あの絵とそっくり。
遠い昔のことなのに、昨日のことのように彼女の声を思い出せそうだ。

・・・・・・
「もちろん、正位置として出たので、よい意味とはいえませぬ。例えば、{行き詰まり}、{相談する人がいない}などのね。
しかし、カードの向きの正、逆ばかりに気をとられてはいけないのですよ。カードの出た箇所、そしてカードの寓意をも、考える必要があるのです。」
「おまえ様自身の問題、ということの鍵として現れたこのカード。
逆位置の{調和を図る}、{埋め合わせをする}という、よい意味へ転じるヒントを与えようとしてくれているとも考えられるのです。」

さらに占い師は、絵を指し示して、こう言った。
「なぜなら、このカードの絵では、もともと孤独、また2つの人格をも表すのです。
これは、2本の剣という意味でありながら、棒、聖杯、金貨とは異なって、現実には、1本の剣しか実在はしていないのですよ。」
 
その通りだった。
カードに描かれている人物は、たった一人だ。目隠しをされた状態で剣をかざしている人物。その影が、湖水に映っているのだった。
現実の剣と映った剣とで、2本の剣という意味を表しているのだった。

「そう、この者はひとり。そばには敵も、そして味方もいません。」
カードの意味をくみ取ろうとして、じっとカードを見つめる彼女に、占い師は付け加えた。
「ここまでが、占い師として師匠から教わったこと。ただ、私は思うのです。
人というものは、目隠しをされていようが、水鏡などがなかろうが、自分を見つめる2人目の自分を作り出すことができる生き物だと・・・・。
そんなメッセージも、このカードには含まれていると私は信じたいのです。」
・・・・・

あの異国の占い師に占ってもらった時はまだ、自分は田舎娘のカチュアにすぎなかった。
そして、ただデニムの姉だった。
血のつながりがない、なんてことは知らなかった。
でも、今は、今は・・・・・!

鏡の中にある、もうひとつの世界から声が聞こえるような気がする。
その中に住んでいる、もうひとりの自分から。
「あなたはだあれ?」と。
「・・・・カチュア?・・・・それとも、ベルサリア?」

そう、私は、いったいどちらなのだろう?
そしてデニムは、どちらに用があるというのだろう?

暗黒騎士ランスロットは、プライヴェートではベルサリアではなく、カチュアという名を呼んでくれていた。それが優しさからでたものではなく、彼流の洗練された他人を懐柔する方法なのだろうと想像しつつも、どこかうれしかった。
デニム、あなたにだけは、王女ベルサリアと呼ばれるのは・・・いや。
 
そう、今でも、胸がはりさけるばかりに想っていたのだ、私は・・・。
デニムから離れれば、淋しくとも心は楽になると思っていたのに。

私の想いなどはるかに越えて、成長しつつ、理想を語る弟。私は、ただ昔に戻りたいだけ。
「恋人みたいに仲の良い姉弟だね。」と言われていた平和な頃の私たちに。
いつもただそれだけを、願っていたのに。
デニムとは、血のつながりのないことを暗黒騎士ランスロットに教えられてから、姉ではなかったことが、とてもショックだった。そして、心のどこかで彼への想いのゆらめきが形をかえてしまったような気がして、よけいつらかった。
ううん、デニムは、私の想いなんて。本心なんて、きっと理解できないのだわ。
一番わかってほしい相手にわかってもらえない、なんて。

とりとめのない考えは、そこで断ち切られた。
大きなどよめき、そして、いきなりの静寂。
その前に、悲鳴が聞こえたような気がする。

ああ、デニム?・・・デニムの声だったかも知れない。
あの暗黒騎士ランスロットに勝てるはずなど・・・。

心臓の音が響き渡りそうだ。かろうじて叫ぶのをこらえる。
血だまりの中に倒れ、輝きを失っていくデニムの澄んだ瞳。
これ以上の想像には、もはや耐えられない。

・・・・・・これから、どうすればいいの?

  もしも、今ここで、デニムの死を暗黒騎士ランスロットに告げられたなら?
・・・デニムのいない世界で、たった一人でベルサリアとしての運命を背負っていく気には、どうしてもなれない。

でも、デニムが勝ったのなら?
私のことを本当に心配して、さがしにきてくれたのかもしれない。
昔と同じように、ずっとそばにいて互いをかばいながら、あらがえない運命に対して共に戦っていけるのなら。
そうよ、未来というものに希望を持って、ベルサリアとしての立場との{調和を図る}こともできるかもしれない。
 
もしかしたらデニムだって、軍をまとめるために英雄と優しげな少年との2つの人格のはざまで、ずっと心を痛めていたのかもしれない。
それなら、私の気持ちも少しはわかってくれるかもしれない。

しかし、彼女の心の中でもうひとつの恐ろしい疑問が、首をもたげた。
暗黒騎士をしのぐばかりの、強いデニムに変貌をとげていたとしたらどうしよう?
どうしよう、デニムが暗黒騎士達の返り血を幾重にも浴びながら、さわやかに笑いかけたら・・・?
私のデニムへの想いを知りつつ、それを利用してベルサリア王女という、大義を手に入れようとしていたら?
『平和と理想の実現のために、ヴァレリア全土を統一。』
その目的のためなら、自分の心をも押し殺せるデニムになっていたら?
そう、前王の忘れ形見など、邪魔になれば殺せばいいと考えていただろう、ブランタや暗黒騎士ランスロットのようになっていたとしたら?
鏡に映る自分がまるで今までの自分と違って見えるように、デニムもまたかつてのデニムではなかったら?
もしも、立ちはだかる者すべてを平定することに取り憑かれた好戦的な鬼になっていたら?
・・・そう、まるで伝説にあるオウガのように。

・・・・・
残党狩り、そして捜索が始まったようだ。
ドアの外から声が響く。
「・・・まだ、見つかりません・・・・・・・。」
「いるはずだ・・・・・捜せ・・・・・・。」

彼女は、鏡の中の自分に別れを告げ、バルダーダガーを、そうっと隠した。


                              to be Continue・・・・・・

Reverse Position(逆位置)のver.を読んでみる
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