泌尿器科情報局 N Pro

症例001-03

解説

自排尿は時々あるものの、残尿があり、間欠導尿をしている患者さんです。初診時は精査治療を行う状況ではなく、経過観察となっていました。全身状態が改善し、治療を検討するだけの余裕が出てきたため、エコーを再検してみました。

エコー

初診時は膀胱が空虚で、膀胱壁の状態もよく分かりませんでしたが、今回は比較的判断が可能です。
膀胱壁は比較的筋層が保たれている様に見えます。それ以上に前回と違って見える点があります。前回は前立腺は小さく前立腺肥大はないと、断言してしまいそうですが、今回は前立腺の中葉が膀胱内に突出している様に見えます。

IPP(intravesical prostatic protrusion)という指標が知られていますが、前立腺の膀胱内への突出が大きいほど、前立腺による閉塞が強い事が多いと言われています。よって、この患者さんでは、前立腺は小さいのですが、前立腺肥大症による尿排出障害が疑われます。

膀胱壁が保たれ、前立腺の膀胱内への突出がある、という2点からかなり診断が絞られますが、全身状態はそれほどよいわけではなく、前立腺肥大症手術を行う前に、さらに診断を確固としたものとしておきたいと考え、UDSを行いました。UDSの目的はBOO(膀胱出口部閉塞)の確認です。

UDS(PFS)

(クリックで拡大)

定型的に所見を述べていきます。

1. 記録状況
UDS提示にあるとおり、尿流率にアーチファクトがあります。排尿筋圧はきれいに計測出来ているようです。尿意は初発尿意しか記録されていないので、少し疑問に思うかもしれませんが、実はこれは正しく記録されています。

2. 蓄尿期
capacity 200ml弱
compliance 200ml/10cmH2O=20 よって少しコンプライアンスの低下ありと判断。
DO 排尿指示なく排尿が始まっており、terminalDOと判断します。パーキンソン病ではDOがよく見られます。
尿意 初発尿意があったのちにすぐに排尿筋圧があがり、排尿が始まっています。切迫感を感じることなく、失禁となっています。

3. 排尿期
Qmax グラフでは5ml/sぐらいにみえますが、いわゆるぽたぽたと落ちているのが計測されているので、実質は1ml/sもなさそうです。
Pdet at Qmax Qmaxがどこと言い切れませんが、Pdetは150cmH2Oぐらいはありそうです。
腹圧はかかっていません。
DU、BOO この患者さんでは排尿の指示を出す前に排尿が始まってしまったので、UDSの機械がノモグラムを出してくれませんでしたが、シェーファーのノモグラムに当てはめると、収縮力はST、閉塞はVIの典型的な高圧低尿流率です。BOOあり、DUなしと判断しました。ただし、患者さんが排尿をしようとしているのではなく、失禁時の排尿筋圧ですので、本来の排尿筋圧とは異なる可能性があります。

ノモグラム

UDSサマリー DO+ DU- BOO+

推奨治療は、導尿離脱を希望されれば、全身状態に十分注意しながら前立腺肥大手術を行う、ということになります。ただし、術後に尿失禁がひどくなるかもしれないことを、手術前に説明しておくべきと思われます。