泌尿器科情報局 N Pro

症例007-2

追加情報

“こんな症例提示では何にも分からない”と感じた方、そうです、私もそう感じます。

入院中の認知症の患者さんの診療を依頼された際に、一番困るのはそれまでの経過が分からないことです。尿閉となった時期や導尿量が1100mlと分かっているだけまだましで、カテーテル留置日どころか本当に尿閉であったかすら分からないことも珍しくありません。この症例では入院までの経緯を本人にお聞きしても今ひとつ的を射た答えが返ってきません。そこで、ご家族にお願いしてこれまでの経過を聞き直す事としました。

ちなみにUDSは行っても非難はされないと思いますが得られる情報は少ないと思います。尿閉で1100mlと膀胱は相当な過拡張となっていました。まだ1週間しかたっていませんので過拡張の影響が強く残っていると思われ、UDSでは収縮力がすごく弱いか、もしくは排尿筋収縮が始まらないという結果が予想されます。このような状態ではUDSをやっても元々の膀胱機能を知ることはできません。もし仮に膀胱の収縮力が十分に強いという結果が得られれば、下部尿路閉塞を疑う必要が出てきますので、UDSを行う意味もありますが、この症例では前立腺はそこまで大きくなく下部尿路閉塞の可能性は低めです。

入院経過
元来健康でこれまでの通院歴なし。
入院4日前 平常通り。自立歩行可能。尿意を感じ自らトイレに移動し排尿していた。
入院3日前 体動困難が出現。
入院2日前 体動困難が悪化し、救急車で他の総合病院へ搬送された。腰椎圧迫骨折を指摘され帰宅を指示。帰宅後はほぼ寝たきりの状態。意欲も低下し自発的な行動はなし。失禁がありオムツを使用した。
入院前日 近隣のクリニックに受診。胸部レントゲンで胸水を指摘され、総合病院での治療を勧められた。
入院日 紹介状をもって当院内科を受診し、胸膜炎の診断で入院。入院時も失禁ありオムツ管理。
入院翌日 看護師がブラッダースキャンで多量の残尿を発見。導尿で1100ml流出。以後、看護師による間欠導尿。尿意無く定時導尿での管理であった。
入院7日後 胸膜炎が改善し、ADL回復傾向となるが、自排尿の回復無く、泌尿器科依頼。

まとめますと

# 胸膜炎
# 糖尿病
# アルツハイマー型認知症
# ラクナ梗塞
# 骨粗鬆症、古い圧迫骨折
# 脊柱管狭窄症

では、今後の治療方針を考えましょう。