泌尿器科情報局 N Pro

症例014-2

解説

誤嚥傾向のある、虚弱高齢者が、溢流性尿失禁となりました。前立腺サイズはそれほどでもありませんが、膀胱への突出の所見があり、軽度前立腺肥大症の存在が疑われ、経尿道的手術が検討されます。しかし、全身状態はそれほどよい訳ではありません。手術によって再度せん妄を起こすかもしれません。手術を行うことで、どのようなメリットが得られるのか予測するためにUDSが予定されました。

UDS(全体)

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UDS(排尿相)

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1. 記録状況
EMGの波形が出ていますが、FD、NDなどのマーキングの時だけ波形が揺れています。その割に、腹圧をかけたときには波形が出ていません。これは、EMGの表面電極を張り忘れて、UDSの装置にぶら下げられたままとなっているためです。マーキングを入れるためにUDS装置を操作すると、電極が揺すられて波形が出ています。表面電極ではあまり意味のあるEMG記録がとれないことが多いので、こういう張り忘れをよくしました。
膀胱圧、腹圧ともに細かい基線の波がありますが、これは呼吸による変動です。排尿相の後半で多少サブトラクションがずれていますが、他はおおむね良好にサブトラクションが得られています。

2. 蓄尿期
Capacity 210ml
Compliance 200ml/5cmH2O=40ml/cmH2O ごく軽度の低下はほとんど問題となりません。
DO NDを訴えうるあたりでごく軽度Pdetが上昇しています。またMaxCapのあたりでは、もっとはっきりしたPdetの上昇が2回記録されており、DO+と判断します。排尿命令があるまでに、いったんPdetは下がっているので、phasicDOに分類されます。
尿意 FD16ml ND124ml MaxCap210ml FDをかなり早く訴えていますが、カテーテル挿入の違和感などもあるので、必ずしも異常とは言えません。

3. 排尿期
Qmax 10ml/s
PVR  0ml
Pdet 一部サブトラクションがうまくいっていませんので、腹圧とともに急に上昇する波形を無視して判断します。Pdetは60cmH2O前後まで上昇しています。
腹圧 排尿の前半では腹圧はあまりかかっていませんが、後半で腹圧をかけています。それほど珍しいことではありません。

ノモグラムに当てはめると、閉塞度はII、収縮力はW+あたりになります。

UDSサマリー DO+ DU+ BOO±

以上からDHICに軽度前立腺肥大症が合併した状態と判断されました。

手術を行うことで、将来の尿閉再発のリスクを多少減らすことができると思われますが、現時点では残尿は減少し、導尿は不要な状態まで回復しています。本人、家族と相談し、手術は予定せず、タムスロシン継続となりました。今であればデュタステリドも追加したかもしれません。

さて、閉塞は軽度と判断されましたが、それではなぜ溢流性尿失禁の状態となってしまったのでしょう。