泌尿器科情報局 N Pro

症例024-3

経過、UDS提示2

この患者さんは、なぜ尿閉となってしまっていたのでしょうか。前立腺肥大症が進行して尿閉となったのでしょうか。5年前の受信時に残尿があることが知られていましたので、慢性的に悪化した可能性も考えられますが、入院時に腎障害や膿尿がないことから、この患者さんの尿閉は比較的急性の変化であった可能性が高いと思われます。何らかのきっかけで脱水状態となり全身状態が低下したことが、尿閉の原因になったと思われます。しかし具体的な原因までは今となってはわかりません。当然、前立腺肥大症もその発生を助長したと思われます。もし前立腺肥大症がなければ尿失禁を来たして1100mlも膀胱に尿がたまることはなかったかもしれません。

排尿できませんでしたが、PdetはDOによって15cmH2Oまで上昇することが確認されました。排尿しようとしてPdetが上昇しているわけではありませんが、排尿筋低活動があることは間違いなさそうです。問題は閉塞の有無と、手術をすることで導尿を早期に離脱できるかどうかです。排尿ができませんでしたから閉塞の判定はできませんが、前立腺サイズを考えれば、多少の閉塞はあると考えた方がよいでしょう。では、導尿離脱の可能性はどう考えるとよいでしょう。

実のところ正解はないと思います。手術をしてみればわかります。しかし、原因不明の状況で全身状態不良となり、現在もせん妄状態が続いている高齢認知症患者さんです。年齢だけで考えればそれほど手術を躊躇することはありませんが、せん妄が続いている状態で、手術を行うことはためらわれます。腰椎麻酔での手術は難しく全身麻酔が必要となります。せん妄悪化のリスクは高く、また認知症では術後肺炎のリスクが非常に高いことが報告されており、可能であれば少なくともせん妄状態が落ち着いた状態まで待ってから手術を予定したいところです。実は、このUDSを予定した時点で、ある程度排尿筋低活動という結果がでるであろうことは予想をしていました。1100mlもの膀胱過拡張が発生してから数日ですので当然です。しかし、手術を行えばせん妄状態も含めすべてが改善するという希望をもって受診した家族を納得させるための証拠を示すため、あえてUDSを予定したわけです。

排尿筋低活動の患者さんにTURPを行って改善が得られるカットオフ値はPdetが20もしくは28cmH2Oとする報告があります。これはノモグラムの閉塞度0とIもしくはIとIIの境界線のQmaxがゼロの時の切片の数値です。

ノモグラム

つまり、閉塞がなくても、尿道括約筋の抵抗に打ち勝って排尿を始めるためには、ある程度の排尿筋収縮が必要であるということです。ただし、なかには排尿筋収縮がなくても、上手に腹圧排尿ができる患者さんがいますので、排尿筋低活動だからといって必ずしも尿閉となるわけではありません。

この患者さんの場合、現時点で手術を行っても、導尿を離脱できる可能性は低いと判断されます。ただし、現時点ではという条件付きであり、今後膀胱過拡張の影響が消失し排尿筋収縮力が回復する可能性は十分にあります。

以上の結果を家族、主治医に示し、早期の手術は行わないことに納得していただきました。かといって、将来的に自排尿回復の可能性がないわけではなく、どちらかといえば回復する可能性の方が高いぐらいですから、可能であれば尿道カテーテルの留置は避け、間欠導尿で経過を見たほうがよいことを提案しました。幸い導尿管理が可能な施設が見つかり、全身状態の改善を待つためにいったん退院となりました。なおデュタステリドは継続としました。 その後、徐々に全身状態が改善し、せん妄は落ち着きました。残念ながら認知機能は回復せず、認知症の診断が確定されました。そして、自排尿が出現し始めました。

3ヶ月後エコー(膀胱)

3ヶ月後エコー(前立腺)

計算上は半減していますが、さすがにそこまで縮小しているわけではなく、計測誤差のためとおもわれます。それでもデュタステリドの効果は十分に現れていると考えられます。デュタステリドがかかりつけ医から処方されていましたが、つい最近開始されただけなのか、もしくは処方はされていたもののほとんど内服していなかったのかもしれません。

UDSが予定されました。

UDS

(クリックで拡大)

記録が抜け落ちてしまっていますが、FDから後は排尿を許可しています。

解釈をしてみましょう。