泌尿器科情報局 N Pro

症例025-3

解説2

腰部脊柱管狭窄のある尿閉の患者さんで、UDSでPdetは非常に高圧となるが排尿ができませんでした。さて、腰部脊柱管狭窄がこの患者さんの排尿障害の原因となっているでしょうか。

一般的には腰椎の病変では核下型の障害パターンをとることが多いといわれ、膀胱は排尿筋低活動の状態となることが多いといわれています。残念ながら、多いだけで断定はできません。とはいえ、膀胱の形態はおおむね異常がないため、想定される病態は排尿筋低活動が疑われます。DSDによる排尿障害であればDOが合併しやすく、膀胱壁の肥厚や変形がみられることが多いように思います。

ということでDSDを完全に否定することはできないがおそらく強度の閉塞があることが疑われます。加えて、整形外科からも腰部脊柱管狭窄症の関与は否定できないが、おそらく尿閉の原因となっている可能性は低いとコメントされています。

そこで、エコーの再検と膀胱鏡を行いました。

前立腺エコー

膀胱への突出を認めます。中葉肥大のある前立腺肥大症では閉塞が強いことが多いといわれています。

続いて膀胱鏡を行いましたが、括約筋の緊張がどうしても緩まずに検査ができませんでした。

以上の結果から、排尿障害の原因としては、腰部脊柱管狭窄の影響もあるが、前立腺肥大の影響の方が強いであろうと予測しました。脊柱管狭窄に対して手術が予定され、前立腺肥大症の手術を同時に行うかどうかが検討されました。  

患者さんは100%回復するなら手術をするが、回復する可能性が高いだろうというだけでは手術はしたくないといわれ、ひとまず腰部脊柱管狭窄症の手術を先に行うことになりました。

なお脊柱管狭窄症に対して手術を行うことで、下部尿路症状が回復するかどうかは非常に微妙であり、改善する症例もあるが、改善しない症例もあります。また、悪化する症例もまれではありません。脊柱管狭窄症に対する手術治療は、下部尿路に限って言えば、将来的な症状悪化の予防には有効ですが、現在の下部尿路症状を改善するために脊椎の手術を行うのはやや確実性が低いといえます。

脊柱管狭窄症の手術は無事に終わり痛みが改善しました。手術後も自排尿は回復せず、自己導尿が続けられましたが、その後カテーテル挿入が困難となり、尿道カテーテル留置となりました。そこでやっと患者さんはTURPを受ける決心を固め、脊椎術後のため全身麻酔下でTURPが行われました。

術中所見

前立腺は腫瘍が充満していました。被膜穿孔と括約筋損傷に注意しつつ、尿路を確保して手術を終了しました。切除重量は9gでした。

初診時のPSAは11.1でしたが、尿閉時の数値と考えれば問題がない数値と考えていました。よくよく振り返ってみれば、初診時の前立腺エコーと再検したエコーではずいぶん所見が異なっていました。検査を行った医師が違ったため、異なる所見が得られたのかと考えてしまいましたが、実際には非常に進行の早い腫瘍でした。

初診時エコー

再検

病理結果は Adenocarcinoma グリソンスコア 4+5=9

腹部CT

右閉鎖リンパ節に転移がありました。

術後は自排尿可能であり導尿は不要となりました。

その後、ホルモン療法として除睾術を行いましたが、1年ほどで再燃してしまいました。画像では明らかに腫瘍の増大があるものの、PSAの上昇はごくわずかで、あまりPSAを産生しないタイプの前立腺癌でした。