泌尿器科情報局 N Pro

症例036-3

解説2

前立腺肥大症術後の排尿障害です。前立腺肥大症術後のカテーテル抜去直後の合併症は、尿閉を来す出血、出血以外の理由による尿排出障害、発熱、精巣上体炎などがあげられます。出血以外の理由による尿排出障害はどの術式でもだいたい5%程度に発生します。

以前、当院で経尿道的前立腺肥大症手術の周術期成績の全国調査を行ったデータから、TURP術後の尿排出障害の要因を調べました。3,043例のデータを多変量解析した結果以下の7つの要因が抽出されました。

・年齢
・術前の尿閉
・術前予測前立腺体積
・術前予測からの切除率
・術中灌流方式が持続灌流式
・術後出血による尿道カテーテル閉塞
・術後尿道カテーテル抜去日

つまり
1. 膀胱機能(年齢、術前の尿閉、術前予測前立腺体積)
2. 閉塞の解除(術前予測からの切除率)
3. 周術期の膀胱過伸展(術中灌流方式が持続灌流式、術後出血による尿道カテーテル閉塞)
4. 膀胱過伸展からの時間経過による回復(術後尿道カテーテル抜去日)

が、術後の尿排出障害に関係すると言うことがわかりました。

ちなみに、カテーテルを早く抜去すると、尿閉を来す出血や出血以外の理由による尿排出障害は増加しますが、かといってあまり長期にカテーテルを留置すると尿道狭窄が増加します。バランスを考えると術後2~4日で尿道カテーテルを抜去するべきと思われます。

話がそれましたが、この患者さんの場合、年齢は71才と比較的若いのですが、もともと術前のUDSで軽度DUが指摘されています。PVPでは術中灌流方式は持続灌流式であり術中に多少なりとも膀胱過伸展の状態となっていたかもしれません。そこでクリニカルパスでは術後2日目にカテーテルを抜去する予定となっていましたが、術後3日目に尿道カテーテルを抜去しました。しかし排尿できず、導尿困難もあったことから尿道カテーテル再留置となり、十分な日数を空けて術後13日目に尿道カテーテルを再度抜去しました。抜去日に自排尿が100mlありましたが、翌日には再度自排尿はできなくなりました。

この状態では何を考えるべきでしょう。周術期に何らかの神経疾患が発生したのでしょうか。尿道カテーテル抜去直後には自排尿ができたが翌日にはできなくなったことから、排尿開始までの問題は考えにくく、神経疾患よりはカテーテル抜去後の閉塞の悪化を考えます。前立腺肥大症の患者さんに尿道カテーテルを留置すると一部の患者さんでは前立腺サイズが一時的に小さく見えることがあります。また尿道カテーテルの圧迫でわずかに閉塞が改善することがあります。しかし尿道カテーテルを抜去してしばらくすれば再度閉塞が戻ってしまいます。この患者さんでも、このようなメカニズムが働いたのではないかと考え、手術による閉塞解除が十分ではないことを疑いました。

術後前立腺エコー

頚部にはキャビティが形成されていますが、全長に渡ってキャビティが形成されている事は確認できません。

経過観察の方針がとられ、術後7週で残尿が減少し導尿を離脱しました。

PVPは出血が少ないが不十分な治療に終わりやすい、ということは以前から指摘されています。全国調査では保険収載される前に導入した日本のトップ3施設のみの集計でしたので、術後排尿障害の頻度は他の治療法と同等でしたが、どの施設でも同様の成績が得られるということではなく、道具を使いこなすことにハードルが存在するようです。