泌尿器科情報局 N Pro

症例037-2

解説

HAMの患者さんです。脊髄の障害を呈する疾患であり、将来的な腎機能障害の危険性がある疾患です。若い患者さんですので、長期的な予後を考えてきちんと管理をしてあげる必要があります。

受信時には、尿意切迫感、切迫性尿失禁があり、膀胱の壁肥厚が強度でした。膀胱コンプライアンスの低下、無抑制収縮の存在が疑われます。これらの所見は腎機能障害のリスク因子です。そのようなケースでは、間欠導尿や抗コリン剤の使用が勧められますので、その判断を行うためにUDSが予定されました。

UDS

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1. 記録状況
サブトラクションは良好にえられていますが、Pabdがゆっくり下降しています。5cmH2Oほどの低下です。腹圧が下がったというよりは、腹圧を測定するために直腸に入れたセンサーのバルーンが縮んだためと思われます。判定する際にPdetではなくPvesを使用するか、Pdetから下がってしまった腹圧分を引いて判定します。

2. 蓄尿期
Capacity 250ml
Compliance 250ml/20cmH2O=12.5ml/cmH2O
DO 記録上は出現なし。
尿意 記録上は尿意は140ml注水した時点で最大尿意まで一気に出現しています。排尿を指示しましたが排尿できませんでした。これは、初診時に訴えていた症状です。膀胱内圧の上昇はなく、排尿もしくは失禁もありませんでした。

3. 排尿期
Qmax 排尿できず。
PVR排尿できず。
Pdet 蓄尿期の途中で最大尿意を感じた際には、排尿を指示しましたが排尿はできませんでした。その間に尿意は消失してしまいました。250ml蓄尿した際には、排尿ができんかったものの排尿筋圧の上昇を認めました。Pvesの最大値は30cmH2O程度です。前述のとおりPdetは測定中にPabdが低下してしまったのでその分高めになってしまっています。普段はもっと蓄尿量が多い状態で排尿を行っているのであろうと思われます。
腹圧 上昇はありません。排尿しようとしているのに腹圧が上昇しないのはHAMによる麻痺あるため、腹圧がかけられないためです。

ノモグラム

排尿筋収縮力 VWと判定されます。
下部尿路閉塞 排尿ができていないので、閉塞はI以上としか判定できません。I以上という判定はあまり意味がありません。

さて、DOはなしとして良いでしょうか。患者さんの症状はDOを強く疑うものであり、エコーでの膀胱形態もそれを強く示唆します。判定基準でいえばDOは無いと判定されますが、DUのある場合には、病態的にDOがあってもPdetに表れなければ検出できません。この患者さんの場合も低コンプライアンスやDUのためにDOが隠れてしまっているかもしれません。病態的にはDOがあると考えてよいように思います。OAB without DOもしくはSensory DOなどと表現するべきという意見もあるかもしれません。
BOOはI以上としか判定できませんでした。胸椎レベルの障害がありDSDの可能性が否定できません。

UDSサマリー DO+(おそらく) DU+ BOO不明(DSDが否定できない) 低コンプライアンス+

続いて、今後の治療を考えましょう。