泌尿器科情報局 N Pro

症例037-3

解説2

HAM(HTLV-1 associated myelopathy)による神経因性膀胱の患者さんです。頻尿、尿失禁を訴えて受診し、残尿を発見されました。UDSでは低コンプライアンス、DO、DUを指摘されました。 

神経因性膀胱での尿路管理の目標は、腎機能の保持、感染コントロールと膀胱機能の温存や症状の改善です。若年の患者さんでは、長期にわたってこれらの要因が維持されるような管理を行う必要があります。

この患者さんの場合、腎機能障害はきたしていないものの、低コンプライアンス、DO、膀胱形態の変形、膀胱壁の肥厚など、将来的な腎機能障害や膀胱機能障害のリスク因子を有しています。また有熱性ではないものの尿路感染もきたしています。これらの因子に明確なカットオフ値があるわけではありませんが、コンプライアンスは10ml/cmH2Oが、蓄尿終末期の排尿筋圧は40cmH2Oがひとつの目安として知られています。この患者さんでは、ぎりぎりでこれらの数値をクリアしていますが、膀胱形態が不良であることが気になりますし、それ以上に症状のコントロールが不良です。

抗コリン剤の内服によってコンプライアンスが改善することが知られています。しかし残尿が多く尿排出障害の悪化も懸念されます。この患者さんの場合、頻尿、尿失禁の改善には残尿を減らすことが重要です。明確なエビデンスは知りませんが、自排尿を禁止することでコンプライアンスが改善するといわれており、当然導尿によって残尿の問題は解決します。そこで、自排尿を禁止したうえで間欠導尿を導入し、あわせて抗コリン剤の内服を強化することとしました。入院の上自己導尿指導を行い、ソリフェナシンを最大量の10mgに増量しました。患者さんの受け入れは良好であり、退院後の診察では頻尿、失禁が改善したことで、生活が楽になったとの発言を聞くことができました。