泌尿器科情報局 N Pro

症例041-3

解説2

認知症患者さんが尿閉で入院し、尿閉の原因を推理しています。

前立腺肥大があり両側水腎で入院していますが、この症例の場合は、前立腺肥大症が進行して尿閉となったのでしょうか。
前立腺肥大症が悪化して尿閉になる場合も当然あるとは思われますが、ゆっくり進行するはずの前立腺肥大症だけが原因となるよりも、排尿状態に悪化を来す何らかの別のイベントが存在することのほうが多いように思います。

この症例の場合、1か月前に肺炎で入院し、おむつによる失禁管理となっています。認知症の患者さんでは全身状態が悪化することで、認知機能の低下や意欲低下、その他さまざまな身体機能の低下が発生し、全身状態が悪化する前に行っていたADLが維持できなくなります。尿意を感じてトイレに行っていた患者さんが、肺炎などでトイレに行かなくなり失禁管理となることが良くあり、この症例もそのような状況にあったと思われます。肺炎での入院前の排尿状態は不明ですので断言はできませんが、おむつによる失禁管理になったことで、臥位での排尿や、もしくは排尿をしようとしなくなったことを原因として、残尿が増えていったと予想されます。

続いては、この患者さんへの対応を考えないと行けません。3人がかりでの導尿をいつまでも続けてゆくわけにはいきません。とはいえ、カテーテル留置では再度肉眼的血尿を来してしまうかもしれません。
そこで、消去法的な選択ではありますが、前立腺肥大症手術を行うこととしました。アスピリンを休薬後、全身麻酔下にPVP手術を行いました。手術翌日には尿道カテーテルを抜去し、間欠導尿に戻しました。術後1週間、間欠導尿で経過をみましたが、自排尿は回復しませんでした。

この時点で、病院および施設の都合で、急遽退院が決まりました。退院先の施設の都合で尿道カテーテル留置を選択することとなりました。PVPによって、前立腺腺腫の形が変わりカテーテルを多少引っ張ったとしても出血を来しにくくなると予想していましたが、念のためカテーテル先端にキャップをつけ、おむつからカテーテルが出ない状態での管理を行うこととしました。その後は出血来すことはなく、施設へと退院してゆきました。
本来であれば、もう少し導尿で自排尿の回復を待ちたいところですが、導尿のためだけに入院を継続できる余裕は、昨今の病院にはありません。
退院時の紹介状に、前立腺肥大症手術をしており、いずれ尿閉から回復する見込みが高いという旨を記載し、施設で抜去を挑戦するか、抜去のために再診するように依頼をしました。