泌尿器科情報局 N Pro

残尿発生の原因2

失禁性排尿

さて、実際に排尿を行う段階の前に、排尿をしなければどうなるかを考えてみましょう。排尿をしようとしなければ、膀胱内には尿がたまっていき膀胱は拡張していきます。膀胱が拡張した状態でどうなっていくかは、その患者さんの病態によって異なります。ある場合には、膀胱の拡張がある程度に達した時点で排尿反射が起こります。尿道括約筋は弛緩し、排尿筋収縮が起こります。その際に患者が尿意を感じていれば、その排尿は切迫性尿失禁に分類されるものです。

尿がたまっているにもかかわらず排尿をしようとしない時点で正常ではないので、その際の排尿反射が正常に起こるかどうかも、患者さんごとに異なります。尿道括約筋の弛緩が不十分となるかもしれませんし、排尿筋収縮力は弱いかもしれません。また排尿筋収縮の持続時間が短いかもしれません。排尿筋収縮が排尿の途中で止まってしまえば、排尿をしようとして始まった排尿反射ではないため、そこから再度排尿反射が起こることはなく、再度排尿反射が起こる程度の膀胱容量まで蓄尿がなされることになります。結果として膀胱は尿量が一定以下になることはなく、常に残尿が存在する状態になります。

排尿筋収縮の持続時間が非常に短い場合、一度の排尿反射で排尿される尿量はごくわずかとなります。しばらくするとすぐにまた蓄尿によって膀胱が拡張し排尿反射が起こります。この状態は一見、溢流性尿失禁の状態と同じです。ただし、切迫性尿失禁であれば膀胱内の圧は排尿時のみ上昇し、その上昇は弱いかもしくは持続が短いという特徴があります。一般的には溢流性尿失禁の状態は、蓄尿によって膀胱が過拡張し、それによって膀胱内圧が上昇し、その圧が尿道の閉鎖圧を超えることで、尿が漏れる状態を指します。そのため尿道閉鎖圧が高いと、水腎を呈することとなり、腎後性腎不全の原因となりえます。一方、溢流性尿失禁に近い切迫性尿失禁の状態では膀胱のコンプライアンスが悪くなければ、膀胱の圧は常に高いわけではなく、同時に尿道括約筋の弛緩があることも多いため、水腎や腎後性腎不全の原因とはなりにくくなります。しかし排尿筋の収縮が不十分な場合もあり、残尿が大量にある場合にはほぼ溢流性尿失禁と区別はできません。排尿反射で排尿していたとしても尿道抵抗が大きければ水腎、腎後性腎不全の原因となるわけであり、両者の境界領域の状態の患者さんも存在します。

尿閉

前述のとおり排尿反射が起こらなければ膀胱は拡張し、排尿筋収縮がなくても膀胱壁の伸展による弾性抵抗によって膀胱内圧は上昇し、その圧が尿道閉鎖圧を上回れば溢流性尿失禁となります。尿道閉鎖圧が低ければ水腎にはなりませんが、尿道閉鎖圧が高い場合には水腎、腎後性腎不全となります。非常に尿道閉鎖圧が高い場合には、尿はまったく尿道を通過せずいわゆる尿閉の状態となり、水腎、腎後性腎不全は必発となります。ごくまれには膀胱が破裂します。膀胱が収縮をすることなく拡張し膀胱内圧が上昇した状態は、膀胱壁には過剰な外力が加えられている状態です。この状態では排尿筋にダメージが発生します。この状況を膀胱の過拡張といいます。尿閉によって膀胱が過拡張することで、尿閉が解除された後も過拡張のダメージによって、尿意が減弱したり、排尿反射が起こりにくくなったり、排尿筋圧が低下したりします。このダメージはある程度の期間の経過を待つことで回復しますが、完全にもとの状態までは回復しないこともあります。当院で調べた尿閉の回復期間の中央値は、女性は2週間であり、男性は3週間でした。回復が遅い症例を集めたという患者背景もありますので、多少解釈に注意が必要ですが、女性では尿道閉鎖圧が低いことが多く、尿閉時の膀胱内圧が低いために排尿筋のダメージが少ないことや、尿道抵抗が低いことで排尿筋圧の回復が完全でなくても排尿が可能となりやすいという、性差の表れなのかと思います。