泌尿器科情報局 N Pro

残尿発生の原因

このページ(サイト全体についてもそうですが)には、私見や経験を元にしたエビデンスに基づかない記述が多数あります。このページが各研究者によるエビデンスの創出のきっかけとなれば幸いです。

残尿を考える

残尿量とは排尿後に膀胱内に残った尿量の事を指します。残尿が発生していると言うことは、尿の排出が完全にできていないということであり、正常な状態とは言えず、尿排出障害があると言えます。一方、尿排出障害の定義次第ではありますが、残尿が無いからといっても尿排出障害がないとは言えません。

では、残尿の発生する原因は何でしょう。排尿サークルのページを参考にしていただければと思いますが、尿の排出に関係する因子として、尿意を感じ、排尿をしようと考え、トイレまで移動し、実際に排尿を行うという、それぞれの場面を考えないといけません。

尿意

尿意については、あまり詳しく調べられておらず、今後の研究が期待される所ですが、加齢とともに減弱し、神経疾患で障害されることがあることは理解しやすいと思います。高齢者、特に認知症の患者さんでは、尿意を感じてトイレに行くが、トイレにつく頃には尿意が消失してしまい、結局排尿できずにトイレから帰ってくるという、いわゆる“空振り”が見られます。加齢とともに、尿意を感じずに排尿するconvenience voidという行為が減少することを本城らが報告していますが、一部の患者では排尿を行うためには尿意が必要であるということを示しています。尿意に影響する因子は尿閉の原因となり得ます。抗コリン剤は尿意を減弱させます。それ以外にも、痛み、鎮痛剤、便秘などは尿意への影響が起こりえます。当然、意識障害や認知機能低下も影響します。

通常、多少尿意が減弱していても、相当に尿が膀胱内に貯留すれば尿意を感じます。加えて加齢によって過活動膀胱の病態が加わるため、尿意の減弱を患者さんはほとんど自覚することはありません。尿意を感じる機能は、非常にとらえにくい排尿機能の一部です。過活動膀胱で想定されている病因の一つは除神経過敏と言われる病態であり、尿意の減弱と排尿筋過活動は、深い関係があると考えています。

排尿企図

尿意を感じるか、時間経過や外出前などの状況に応じて排尿を行おうと企図します。認知症やせん妄状態の患者さんでは尿意を感じていても、排尿のための行動を起こせない場合があります。たとえ自力でトイレに移動できなくても、看護師にそれを伝えることができれば、介助によってトイレに移動することが可能となります。過去、当院での入院時スクリーニングで残尿量を調査したことがありましたが、コミュニケーション障害のある患者さんでは有意に残尿量が多い結果でした。尿意を感じて排尿意図を訴えられない患者さんでは尿排出障害が起こりやすく、尿意を感じて排尿を企図するという事は、尿排出機能の重要な要素といえます。

移動、体位、環境

トイレへ移動し、排尿の姿勢を保つことは、排尿を行うためには非常に重要なことです。尿道抵抗が少ないため通常では問題となりませんが、女性では膀胱の収縮力の弱い患者さんが珍しくありません。ところがそういった患者さんでは、膀胱収縮力が弱い上に、寝たままでは腹圧がかけられないため、ベッド上臥位の状態では、尿道を超えて尿を排出することができなくなってしまうことがあります。男性では比較的膀胱の収縮力が保たれている事が多いため、寝たままでも排尿できる事が多いのですが、それでも側臥位や腹臥位の方が排尿しやすいと言われています。この排尿姿勢を保つこと(ポジショニング)は、排尿を保つためにはかなり重要な要素です。ベッドでは排尿できなかった患者さんが、ポータブルトイレに移乗出来るようになってすぐに排尿できるようになることはよくあることです。

また、トイレ環境でしか排尿できないと言うことも、よく見られる事です。後ろに人が立っていると排尿できないという男性は珍しくないですし、個室でないと排尿できない女性も珍しくありません。一部の認知症の患者さんではトイレでは排尿を思い出すことができますが、しびんを当てただけでは何をしてよいのか理解できないことがあります。