泌尿器科情報局 N Pro

若手泌尿器科医のための排尿障害入門2

下部尿路機能の評価

ここまでの評価である程度、前立腺肥大の有無、神経疾患の可能性、感染、結石、腫瘍性疾患などの合併について判断ができているはずである。それにより下部尿路症状の原因となる疾患が想定されている場合もあるだろうし、とくに想定されない場合もあると思われる。いずれにおいてもその後の追加検査や治療の選択のため、蓄尿機能と尿排出機能の評価を行う。スクリーニングとして行われる下部尿路機能の評価法としては、尿流量測定と残尿測定、および排尿記録が適当である。

尿排出機能の評価

尿流量測定によって、良好な尿流量が得られており、加えて残尿が少なければ、尿排出機能に大きな異常はないと判断できる。ただし、軽度の下部尿路閉塞や、軽度の排尿筋低活動は、尿流量や残尿では判断できないことがある。もし、尿流量の低下があったり、残尿量の増加があったりする場合には、何らかの尿排出障害があると判断する。尿排出障害は排尿筋低活動と膀胱出口部閉塞のいずれか、もしくは両方が主たる原因となるが、尿道狭窄での特徴的な波形をのぞき、尿流量測定だけから尿排出障害の原因を推測することは難しい。頻度から言えば、男性の尿排出障害の多くは前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞であり、エコーで前立腺サイズや前立腺の形状、膀胱の形態を観察することで、前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞をある程度予測できる。高齢者や神経疾患を有する患者では排尿筋低活動が合併することが多い。当然合併する例も多いし、もともと下部尿路閉塞や排尿筋低活動はあるかないかという2つに分けられるものではなく、どちらも軽度から重度までの幅をもった機能障害である。もし判断に迷う場合にはUDSを行って判断する。

蓄尿機能の評価

蓄尿機能に関しては、尿意の亢進や減弱、排尿筋過活動の有無、機能的膀胱容量などを、問診や排尿記録から推測する。もともと蓄尿機能が常に同じ状態であるものではないため、正確な推測は成り立たない。おおざっぱな推測を行うことで十分である。一般的な診療の範囲では、骨盤臓器脱や尿道過可動の有無、尿道括約筋低活動などといった尿道機能の評価は、問診や視診、ストレステストなどによって腹圧性尿失禁の有無を推測するにとどまることが多く、尿失禁手術を考慮する際にさらなる評価が検討される。

病態の推定

最終的にはここまでで得られた、問診、視診、理学所見、尿沈渣、エコー、尿流量測定、排尿記録の情報を元に、患者の下部尿路機能を推定し、それを説明できる疾患の存在を疑うこととなる。なお下部尿路機能のみから、もしくはUDS所見のみから、下部尿路症状の原因となる疾患を特定することは多くの場合困難である。下部尿路機能の評価は大きく分けると、異常なし、尿排出障害、蓄尿障害、尿排出障害と蓄尿障害の合併の4種類しかない。UDSを行ったとしても、膀胱出口部閉塞、排尿筋低活動、排尿筋過活動、膀胱容量、膀胱コンプライアンスなどの評価が得られるだけであり、たかだかその程度の評価だけで数多くある疾患の中から下部尿路症状の原因となっている疾患を特定できるはずはない。しかし、症状の経過や合併症、エコーの所見、および疾患頻度など、得られるすべての情報を組み合わせることで、ある程度までは疑うべき疾患を絞ることは可能である。

もし原因となる疾患が想定されないにもかかわらず、蓄尿障害や尿排出障害が存在する場合、加齢による排尿筋過活動や膀胱容量の低下、もしくは加齢による排尿筋低活動などを疑うことになる。どの程度までの検査を行ったのかによっても異なるが、得られた情報は多くの場合不完全で、現在の下部尿路機能低下が加齢によるものと判断するのは暫定的な診断ととらえその後も経過を見ていく必要がある。ここまでの所見や、その後の経過の中で、他の疾患を疑うべき所見が出現してきた場合は、しかるべき検査などを追加して、判断を修正していくこととなる。