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若手泌尿器科医のための排尿障害入門3

治療

疾患が特定されれば、疾患を根治できる治療を提供したい。ところが根治が可能な原因疾患は頻度としてそれほど多くない。治療ができない疾患、とくに加齢による下部尿路機能の低下については、対症療法が治療の中心となる。

対症療法を行う前に、下部尿路症状の原因疾患や現在の排尿状態が、腎機能障害や症候性尿路感染を引き起こす可能性について検討する。一般的には下部尿路機能障害が腎障害や症候性尿路感染を引き起こすことはまれである。しかし、原因となる疾患や排尿状態によっては、腎機能障害や症候性尿路感染を引き起こしやすい場合がある。多くの場合は、残尿量の大小で、ある程度腎障害や症候性尿路感染の危険性を判断できる。脊髄損傷や多発性硬化症など脊髄を冒す疾患の中には、残尿量が多くなくても腎障害や症候性尿路感染を引き起こすものがあるため、たとえ残尿が少なくてもUDSなどによる評価が望ましい。もし現在の状況が、腎障害や症候性尿路感染の原因となり得るのであれば、そのリスクをどの程度患者が受け入れられるかによって、カテーテル留置や間欠導尿の導入を検討しなくてはならない。

腎障害や症候性尿路感染の危険性が少ないと判断されれば、治療の目標は患者の症状の緩和となる。尿排出障害に対する対症療法としてアルファブロッカーを試みる。男性では、ハルナール、フリバス、ユリーフなどを、女性ではエブランチルを使用することが多い。極端に残尿量が多い場合や排尿困難が強い場合には、感染や腎機能管理のためには必ずしも必須ではなくても、症状緩和を目的として間欠導尿を導入することもある。また患者のADLや認知機能、介護力などとの兼ね合いではあるが、合併症を覚悟の上、尿道カテーテル留置を選択する場合もあり得る。

蓄尿障害に対する対症療法としては、比較的副作用が少ないと思われる順に、アルファブロッカー、ベータ3受容体刺激薬、抗コリン剤などが検討される。わずかな膀胱容量の増加と排尿筋過活動の抑制が期待できるが、排尿回数は期待するほどは減少しない。抗コリン剤については副作用が非常に多く使用の際には十分な注意が必要である。尿排出障害を来すこともあるため、排尿機能が保たれているか確認した上で処方するべきであり、処方後も、薬物の効果や副作用の出現、残尿量などを定期的に確認する必要がある。蓄尿障害に関しては、飲水制限や塩分制限、運動や、下肢浮腫への対策、保温、不眠対策などといった生活習慣の是正や、骨盤底筋体操や膀胱訓練などの理学療法の方が有効であることも多い。