前立腺肥大症の治療選択
治療目標
治療の選択肢を考える前に、前立腺肥大症の治療目標を考えてみましょう。前立腺肥大症を治療する目的は、一つは症状をよくすることです。尿が出にくい症状を改善したり、我慢が弱くなっている状態を改善したりすることが目標となります。
もう一つの目標は、急に尿が出なくなってしまう尿閉という状態を、予防するもしくは尿閉になってしまった状態から治すことです。多少、症状が悪いだけであれば我慢をすることもできますが、尿が完全に出なくなってしまった場合には我慢をしてはいけません。尿が出ない状態で数日我慢をしてしまうと、腎不全の状態となってしまい、最悪死んでしまうこともあり得ます。
ほかにも、ばい菌が入りやすい状態を改善するためであったり、膀胱に石ができてしまうのを予防したり、前立腺肥大症から出血してしまうのを予防する目的で手術を行う場合もありますが、一般的にはそのような患者さんは多くありません。前立腺肥大症の治療目標は、症状の改善か、尿閉の治療または予防の2つとなります。
治療選択肢
前立腺肥大症の治療は大きく分けて4種類あります。
1. 様子を見る
2. 手術
3. 薬
4. カテーテル
様子を見る(経過観察)
治療を行わず様子を見るのも重要な選択肢のひとつです。今現在、症状が軽く、特に困っていないのであれば、無理に治療をする必要は無いでしょう。将来状態が悪くなった時に治療を開始します。
ただし様子を見ていることで前立腺肥大症が将来どうなりそうかを予測してあるとよいと思います。前立腺が大きい患者さんについては、将来もさらに前立腺が大きくなっていく可能性が高めです。いつまでなら治療をせずに済みそうか、いずれはどのような治療を行うとよいかなどについて、完全な予測はできないにしてもある程度の見込みがわかっているとよいでしょう。
症状は自分で判断できますが、尿が急に出なくなってしまう危険性がないか、ほかの病気が合併していないか、などは自分では判断できませんので、定期的に泌尿器科で判断してもらうことをおすすめします。
手術治療
手術は非常に魅力的な治療方法です。排尿の邪魔になっている前立腺の中を切り広げることで、前立腺の排尿への影響をほとんどなくすことができます。つまり前立腺肥大症がほぼ治るわけです。手術によって前立腺肥大症はほぼ治すことが可能ですが、一部の患者さんでは再度前立腺肥大症となる場合があります。手術方法ごとに少しずつ再発率は異なりますが、おおむね数%程度です。手術方法によっては、手術をする医師の腕前によって再発率がかなり高くなってしまう場合があります。
また加齢などによって膀胱の性能が低下している患者さんでは、前立腺肥大症は治ったとしても、加齢による膀胱の性能は改善しません。手術でどの症状が良くなり、どの症状は残るかもしれないということを、手術前にある程度判断してもらえるとよいでしょう。
しかしこの症状がどの程度改善するかという予測は、泌尿器科専門医の間でも議論になるところで、完全な予測はなかなか難しいのが現状です。患者さんの症状や、排尿記録、前立腺の大きさや形、膀胱の形、UDSという専門装置での検査結果など、様々な要素を判断することで、ある程度の判断が可能です。しかし前立腺肥大症を、前立腺の大きさでしか判断できない泌尿器科医も多く、手術前に考えたほどの治療効果が得られない患者さんがときどきいるのは残念なところです。
手術には大きくはないとはいえ多少は体に負担があります。特に高齢の患者さんや、持病のある患者さんでは、注意が必要です。逆に若い患者さんでは、手術によって逆行性射精という性行為の際の射精の異常が起こるため、性的に活動的な方の場合には注意が必要です。
以前と比べ手術機器が発達し、手術はかなり安全になってきています。しっかりとした前立腺肥大症の診断ができていれば、手術治療は前立腺肥大症治療の一番有力な治療選択肢です。さまざま治療方法がありすが、解説は別のページにありますので、もう少し知りたい方はそちらもご覧ください。