泌尿器科情報局 N

前立腺がんの治療選択肢

前立腺がんと診断され、どの治療法を選ぶかで迷っている患者さんがたくさんいます。いろいろな治療法がありどの治療法が良いのかは、それぞれの方法ごとにメリットデメリットがあり、患者さんが何を優先するのかで変わってきます。ここでは、治療方法の大まかな説明をします。

前立腺がんの治療は大きく分けて5種類です。
 1. 手術
 2. 放射線治療
 3. 内分泌療法(ホルモン治療)
 4. 抗がん化学療法
 5. 経過観察

1. 手術

前立腺を丸ごと手術で摘出する治療法です。転移がある場合には手術を行ってもがんが残ってしまい手術を受けるメリットが非常に少なくなるため、一般的には転移が無い早期の前立腺がん患者さんに対する治療法です。また手術を安全に行うだけの健康状態が必要なことや、手術による体の負担に見合うメリットがありそうな患者さんにおすすめされる治療法であるため、多くの病院では年齢制限が設けられており、70才から75才が年齢制限の目安となります。

手術の負担としては、手術そのものの危険性や、手術後の後遺症が上げられます。一般的な全身麻酔手術の危険性があることに加えて、前立腺がん手術で特に注意が必要な危険性としては、手術中の出血と直腸損傷などが上げられます。手術後の後遺症として最も重要なものは尿失禁です。ほかに、ED(勃起不全)、尿道狭窄、鼡径ヘルニアなどがあります。

手術方法は、古くより恥骨後式根治的前立腺全摘除術という開腹手術が標準的な手術方法でしたが、現在では腹腔鏡を用いた様々な治療方法が出てきています。その中でも最も有望視されているのは、ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術(RALP)です。手術をする医師の腕が良いことが手術の成績には最も重要ですが、RALPではカメラで見ながら手術をするため、拡大して細かい部分まで見られることや、おなかを開かずに手術をするために静脈からの出血が少なくなり正確な手術ができることは、非常に大きなメリットです。

2. 放射線治療

前立腺に放射線を当ててがんを治療する方法です。全身に放射線を当てることはできませんので、放射線治療も転移の無い患者さんに対して行われる治療法です。一般的には手術に比べれば負担は少ないと考えられており、高齢の患者さんに対しても治療を行っている病院があります。放射線治療の性質として、放射線をたくさん照射すればその分治療効果が上がりますが、それとともに副作用も増えてしまいます。ひどい副作用が起きないようにするとおのずと放射線の量を制限せざるを得ないため、一般的な状況での治療効果は手術よりは多少劣ると考えられます。ただし、技術の進歩によってその状況は変わりつつあるかもしれません。

古くからの放射線治療方法はリニアックと言います。まっすぐ放射線を当てるため、前立腺の前後にも多少放射線が当たり、副作用が起こってしまうことがあります。膀胱や尿道が放射線によって刺激され、頻尿や排尿時痛、血尿などが起こることがあります。また直腸が放射線で炎症を起こし、血便やなんども排便したくなる状態となることがあります。

こういった副作用を減らすため、もしくは副作用を増やさずに治療効果を高めるために工夫をして放射線を当てる方法が開発されてきています。大きく分けると3種類の方法があります。

一つは組織内照射(ブラキセラピー)というものです。前立腺の中に放射線を出す小さな金属カプセルを埋め込みます。埋め込んだカプセルからはずっと放射線が出続けるため埋め込むための手術は必要なものの、実際の治療期間はほぼ普通の生活を送れます。カプセルから出る放射線はゆっくり減ってゆき、1年程で相当少なくなります。前立腺の中から時間をかけて放射線治療を行うことで、副作用を減らし、治療効果を高めています。欠点としては、悪性度の強い前立腺がんに対してはやや効果が弱いことが上げられます。

もう一つの方法は、強度変調放射線治療(IMRT)と呼ばれるものです。リニアックでは通常は2方向、多くても4方向から放射線を当てるだけですが、IMRTでは放射線をいろいろな方向から照射します。加えてコンピューター制御で放射線の範囲は強さを調節しながら照射するので、前立腺の周りにあたってしまう放射線を少なくすることができます。それにより副作用を減らす、もしくは副作用を増やさず治療効果を高めることが可能です。

最後が陽子線治療です。リニアックでは放射線がまっすぐ飛んでいき前後の臓器にも放射線が同じように当たってしまうのですが、陽子線では放射線が届く距離が決まっているので、それを調節することで前後の臓器にあたる放射線の量を減らすことができます。欠点としては非常に大がかりな装置を必要とするため治療を行える施設が少ないことと、健康保険が使えないことです。