鬼頭恭一 メモリアルコンサート 開催にあたって 

                       ( 2015.9.21 岡崎 隆)




1. 戦後70年に突如注目を集めた作曲家・鬼頭恭一

   
 そのフィーバーは突如訪れました。2015年4月30日、東京新聞と中日新聞に掲載された記事「早世の才能 音色響け」この記事が、鬼頭恭一復活の始まりでした。その後朝日、毎日、読売など主要紙の全てが鬼頭を取り上げてくださり7月には鬼頭の母校・東京藝大キャンパスコンサートで、発見されたばかりの作品が演奏され、8月には代表作「雨」が初演 (宗次ホール)、NHKによるドキュメンタリー (「ナビゲーション」) 放送と続きました。
 この5ヶ月間に鬼頭に関する新聞記事は名古屋を中心に全部で13 件、テレビニュース、特集、ドキュメンタリー放送は併せて5件に及びました。

 9月に入り、これまでの鬼頭復活の記録をまとめていた私の胸に、新たな思いが沸き起こって来ました。鬼頭の音楽やその生涯について、これまで多くの皆様が関心を寄せてくださり、演奏や報道をしてくださいました。次は鬼頭研究のそもそもの仕掛人たる私が、総決算となる演奏会を開催する番ではないだろうか、と思ったのです。そのきっかけとなったのが、7月の藝大コンサートで永井和子さんの素晴らしい歌を聴かせていただいた事でした。
(村野弘二/歌劇「白狐」第2幕アリア= 村野さんは鬼頭と同期生で、やはり戦争で未来を断たれています)

 「音符が歌ってくれ、歌ってくれと訴えているのです・・・」


 永井さんのこの言葉に、次に鬼頭の「雨」を歌っていただくのはこの方しかいないと確信した私は、ただちに名古屋市内のホールを探し、永井さんのご予定を確認しご快諾をいただき、ようやく演奏会開催に漕ぎ着けたというわけです。

2. 鬼頭恭一 新発見曲について


 今年始め頃、鬼頭恭一の作品は「雨」「レクイエム」の2曲と、讃井智恵子さんが作曲した作品を編曲したものしか確認されていませんでした。3曲の浄書を終えた私は、心の中で思わず叫びました。

「恭一さん、これでもう終りなのですか? いやです ! 私はまだあなたの楽譜をもっともっと作りたい、そして聴きたいのです」


 それから私の鬼頭作品の捜索が始まりました。当初鬼頭の楽譜は昭和20年3月の名古屋空襲で、すべて焼失してしまったと伝えられていました。しかし当時鬼頭は九州・築城航空隊で訓練中で、「1年間の間に20曲くらい書いた」と従弟の佐藤正知さんに語っていた事が分かりました。
 その頃の鬼頭には大切に思っていた方がおり、楽譜などはそちらに託したのではと推測されました。そこで私は、その方のご消息をいろいろな機関や関係者を通じて調べたところ、今もその方が鬼頭の譜面を保管しておられることが分かりました。この7月、ようやくそのご親族から譜面や資料を私が直接受け取り、鬼頭ご親族の佐藤さんのもとに届けることが出来ました。それは母校・藝大コンサートのわずか2週間前でした。「Music Note」と記された古びた冊子などに3曲の作品が含まれていました。このうちの2曲が藝大で初演されたという訳です。

     
(大切に保管されていた鬼頭の音楽ノート 表、裏 各表紙)       


3. 鬼頭恭一 メモリアルコンサートの内容について


 今回の演奏会では前記新発見曲のほか、ノートに記されていた創作スケッチなども加え、現在確認されている鬼頭の全作品を演奏します。
なお演奏会を開催するにあたり、名古屋パストラーレ合奏団には多大なご理解、ご協力をいただきました。同団の特別演奏会として開催するということで、鬼頭作品についてはオリジナルの響きを生かしつつ、弦楽を加える編曲をしております。なおこの作業にあたっては鬼頭が楽譜に記さなかった音は、ただの一つも加えておりません。
 また鬼頭作品だけでは時間的に一夜のコンサートに足りませんので、鬼頭にゆかりの4人の作曲家の作品も演奏致します。

 1曲目は東京音楽学校で鬼頭が学んだ師・信時潔初期の「絃楽四部合奏」(1922) です。古い世代には「海ゆかば」「海道東往」などで著名な信時ですが、この「絃楽四部合奏」はまだ30代の頃ベルリン留学中に書かれた作品で、そのめくるめくようなロマンティックな曲想は、本当にこれがあの質実剛健な信時の作品?と思わせる、素晴らしい作品です。
 
 2曲目は鬼頭と同じ名古屋出身で、鬼頭とほぼ同じ頃東京音楽学校に在籍した作曲家・高田三郎「山形民謡によるバラード」です。日本的な温かな抒情が胸を打つ美しい作品です。なお鬼頭の実家 (錦/現在のテレビ塔のすぐ横) と高田の実家(矢場町) は、歩いてもすぐ位の距離でした。

 次に東京音楽学校で鬼頭と同級生だったお二人の作曲家 = 團伊玖磨さん、大中恩さんの作品を演奏致します。
 実は今回の鬼頭フィーバーで驚いた事がありました。それは各新聞が鬼頭の同級生としてこのお二人を紹介するとき、決まりきったように「ぞうさん」の團伊玖磨、「サッちゃん」の大中恩と紹介されていた事です。團さんは歌劇「夕鶴」、大中さんは合唱曲「風のうた」などそれぞれ素晴らしい作品を書いていらっしゃいます。しかし、より多くの方々に愛され親しまれているのは、やはり童謡だったのです。

 そこで今回は特にお願いし、永井先生に「ぞうさん」「サッちゃん」を歌っていただくことに致しました。このコンサートで唯一、皆さんよくご存知のこの2曲をコンサートのインテルメッツォとしてお楽しみいただければ、主催者としてこんな嬉しい事はありません。


(文中一部敬称を略させていただいております。どうぞご了承下さい)