『I am thankful, if you were safe.』


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<神秘的な湖>を選んだあなたのための続き・・・をどうぞ
 

ランスロットは、病室にて独り苦悶の表情を浮かべたまま、考えていた。
―――明るい目をした『彼』は救世主と称えられたが、ゼノビアの支配者とはならなかった。
そうだ、そうなる前に『彼』を殺してしまったのだから・・・自分の、この手で。

なぜだ?
悲願であった、ゼノビア王国の再建をトリスタン王のもとに行うと、決意したからだ。
王の下に民衆の心をひとつにせねば、ならなかったからだ。

・・・・そして『彼』の力を恐れたからだ。

『彼』の最後のまなざしが、ランスロットの脳裏に甦る。
驚いて、それからすぐに全てを悟ったような、哀しいくらいに理知的な瞳。

「僕を、ラシュディなんかと同じように・・・?そうなのか・・ランス・・・!」
「・・・・・・・・・・・」
答えることはできなかった。せっかくの決心が鈍ってしまうからだ。

「あなたの判断を尊重するよ。・・・あなたの望みだったものね。
・・あなたとあなたの王トリスタンに、新しいゼノビアに、神のご加護を。」

抵抗することもなく、瞑目して悲鳴をもらすまいと唇を噛みしめているさまが、 いかにも哀れだった。

それが、精一杯の『彼』の潔白の証であり、悲しい抗議だったのかもしれない。
自分は『権力にとりつかれた亡者』ではない、という。
信頼を寄せていたランスロットに理解してもらいたい、という。
・・・声に出さない抗議。

「そうじゃないッ!」と言ってやりたかった・・・。できるものならば。
深い絶望の中にいる友に。
せめて、最後の瞬間に真実を。
だが・・・。あの時、自分のしたことは・・・。

ふいに、ハイムの牢内でのタルタロスの非情な言葉が、ランスロットの脳裏に響き渡る。
「・・・のためには愛する者を裏切ることもできる。」

―――私は『彼』を裏切ったのか・・・?
そうかもしれない。自分の目的達成のために『彼』を。
歴戦の騎士という自分に対して、全面的に尊敬と信頼を寄せてくれていた青年を。

『彼』に殺戮者としての英雄・・・という汚名を着せて死なせたくはなかった。
『彼』だけが、殺しすぎた訳ではなかったのに。
だが・・・他に選択肢はないと決断したのは、自分なのだ。

―――当時を思い返してみても、あの戦乱は異常な興奮状態のるつぼだった。
天使、妖精、天空の騎士と共に魔族、幽霊、闇の使者、異形のありとあらゆるものが、 『彼』に魅せられ、まとわりつくように進軍していた。
最後には『彼』が自らの力を行使するまでもなく、『彼』が指さしたものすべてに 皆が先を競うようにして突進したのだ。
それが、彼の喜びになると信じ、『彼』を満足させようと。
自分の命さえも、喜んで差し出した。
神に愛され、さらに闇の神にも『彼』が愛されていることを軍に属する皆、誰独りとして疑わなかった。
制圧と騒ぎ、『彼』の訪問に文句や不平をいう少数派の方がおかしいのだ。

戦勝の宴で興奮した魔族が、「次は何をやる?」とつぶやいたことで、 ランスロットは酔いから醒めたような気がした。 宴の中心では『彼』が、皆を魅了する笑顔で笑っていた。

そうだ、この次はどうなるのだ?・・・・絶望的な考えが浮かんだ。
視線を転じると、若きトリスタン王がたたずんでいる様が目に入った。
次なる目標は何だろう。『彼』は何を望むのだろうか。

いや、違う。
『彼』自身が望まなくても、魅力(カリスマ)に酔いしれる興奮にとりつかれたものは、狂っていくかもしれない。いや、すでにその兆しは・・・あるのだ。 酔いが醒めなければ、自分も、その兆しに気づかなかったのかも知れない。 『彼』自身にも制御できない域に達すれば、更に大きな悲劇が起こりうる・・・。

『彼』の力の源は、タルタロスや、ラシュディらとは決定的に違った。
だからこそ・・・『彼』自身を消してしまうしか方法がないと・・・。だが。
 

「だが、私は・・・!」
自分の声で起きてしまったというのか。
ランスロットの未だに視力の回復しきっていない眼に、ほの暗い病室の輪郭がぼんやり浮かぶ。

・・・目の前に金髪の青年が立っていることに、ランスロットは気づいた。
『彼』だった。

「・・・どうしてここにいる?まさか、あの時ウォーレンが何か?!」

青年を見いだし、リーダーに据えたのはウォーレンだった。
しかし、そういえば『彼』の最後に立ち会っていなかったのである・・・。
ゼノビアきっての魔法の術者であり、予言者でもあるウォーレンならば・・。
「いや・・まさか・・。それとも・・夢なのか。」

「・・・夢でしょう。・・・その方がいい。」
彼の表情も、印象的な瞳も見えない。
ただ、あの頃の『彼』と同じ気配が感じられる。
戦う時の鬼神のような振る舞いとは裏腹な、深い森の中にいるような静かさ。
包み込むような霧を思わせる穏やかさ。

「・・・助けに来てくれたのは、やはりお前だったのか。」
彼は答えない。

やはり、これは夢かと疑いつつも、ランスロットはずっと抱えていた言葉を吐き出さずにいられなかった。
「・・・なぜだ、なぜ助けた・・?私はお前の命を、・・望みを奪ったんだぞ。」
「・・・僕があなたを、恨んでいるとでも?」
かすかに笑った・・?いや、ため息か・・?

「・・・確かに少し悲しかったけれど・・。でも、僕の望みは奪われてはいなかった・・。僕の言葉はあなたに届かなかったのかもしれませんね・・。」
・・・言葉?
剣が青年をつらぬいたあの時の、自分の耳に届いたかすかなつぶやきのことか?
・・・確かあれは・・。

『・・いいんだ・・。僕は、十分満足・・だ・・から。』

―――そうだ、それだ、私にはそれが不思議だったんだ、ずっと。
目的のために非情な行為に及んだ自分は、タルタロスと同類じゃないか。
なぜ、抵抗もせず、お前は私の行為をゆるしたんだ!
・・・お前はけっして弱者などではなかったのに。いや、それどころか・・。
差し違える覚悟をした上で、自分は必死の決意をしたというのに。

「どうしてお前は・・・?」
「・・・信じているんだ。あなたが・・・・だから。」
「・・・え?・・・」
また『彼』の言葉を聞きのがしたのか。だが、しかし今確かに何かが分かったような気がした。

眼を上げた時、彼の姿はなかった。
かすかに病室のカーテンが揺れてはいたが、そこには風しか存在しなかった。

       

<了>

あとがき:タイトルの意味は、「聖騎士ランスロットが正気を取り戻してくれたら、創造主(ゲームメーカー?)に感謝しちゃうのにな。」(^^ゞという作成の動機から採りました。
魔法使いタイプのオピニオンリーダー(男)をモデルにしたこちらのVERSIONでは、「あなたさえ無事で生きていってくれたら、それでいい。」という気持ちを込めています。
『伝説のオウガバトル』のバッドエンディングを実際に見たことはないのですが、自分だったら尊敬する騎士ランスロットの判断なら、あきらめると思うのです。 自分の存在が、ゼノビアを平和にすることに障害になると敬愛する騎士に思われてまで、存命したくはないですね。手に掛けてくれるなら本望なのですが、ひとつ心配なのが”彼の心に影を残さないか”ということだったので、こんな展開になりました。
あと、書いているときに設定に迷ったので、<ウォーレンが『彼』をテレポートか何かで救出していたので、実は生きていたと>いう仮説も残しておきました(実際、その仮設定でも書いてみました)。
『彼』が実は生きていたのか否かは皆様の好きなように解釈してください。ランスロットは果たしてどちらを望むのでしょうか。
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