泌尿器科情報局 N Pro

症例005-2

解説1

急速に進行する認知機能低下のために入院した女性です。45才ということで高齢者ではありません。自律神経機能の評価目的でUDSを依頼されています。個人的には、神経因性膀胱において、UDS所見から原疾患を評価することは、かなり無理があると思っています。多くの場合UDSで読み取れる所見は、DO、DU、BOOなどだけです。高齢者では、特別な疾患がなくてもDO、DUが見られることはまれではありませんので、そうなるとほとんどのUDSの結果は、加齢による変化で説明ができてしまいます。それでもUDSを依頼されたと言うことは、よほど神経疾患の診断に窮していると言うことなのでしょう。

UDS

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1. 記録状況
サブトラクションは良好に得られています。わずかですが、検査中にPabdが低下しており、それによってPdetが少し高めに記録されています。尿意を訴えることができません。記録されているFDは記録ミスです。

2. 蓄尿期
capacity 80ml程度? 注水によって失禁してしまい、十分な蓄尿ができていません。
Compliance 途中まではコンプライアンスは良好です。失禁がある間はPvesは下がった部分でも15cmH2O程度です。注水量からVmicを引くとその時点での膀胱容量となりますが、失禁前後の膀胱容量は50ml前後でしょうか。よってその時点のコンプライアンスは50/15=3.3程度ですので、コンプライアンスは不良です。
DO ありです。DOに応じて失禁があります。
尿意 感じていません。

3. 排尿期
Qmax 6ml/s程度
PVR UDSでは失禁後の残尿は50ml程度。ただしトイレでは残尿無く排尿可能でした。
Pdet 50cmH2O
腹圧 腹圧はかけていません。
DU ノモグラムでは収縮力はW+ 閉塞度はIIぐらいです。45才女性で、失禁時のPdetですから、それほど問題のある数字ではありません。
BOO ノモグラムでは閉塞度はIIぐらいです。失禁時ですのでそれほど問題のある数字ではありません。

UDSサマリー DO+ DU-? BOO-?

原因不明の認知機能低下の精査目的のUDSです。判定としてはDO、コンプライアンス低下となります。尿意を理解できない、排尿指示を理解できずトイレでは排尿可能、という点については、認知機能低下で説明が可能と思われます。

今後の排尿管理についてですが、まずは原疾患の予後が気になる所です。残念ながら原疾患の診断がついていませんので、予後は不明です。よって、経過観察を続けていく必要があります。今後変化があるかもしれませんが、当座の管理方針をどうするべきでしょう。

こうするべきだという絶対的な正解があるわけではありません。膀胱容量は少ないのですが、初発のDOまではコンプライアンスは良好です。DO出現後は完全な排尿が困難で蓄尿圧が上昇しているため、DOを減らす向きで管理をしたい所です。トイレを認識して自排尿は可能であったため、失禁が減るように定時での排尿誘導を看護師にお願いしました。抗コリンの内服が検討されましたが原疾患が不明のため控えることになりました。当院入院中は問題なく経過しました。

この症例には続きがあります。