泌尿器科情報局 N Pro

症例034-4

解説2

3ヶ月前に溢流性尿失禁に近い切迫性尿失禁であった患者さんが、肉眼的血尿をきたして受診されました。排尿障害のために感染が悪化して血尿となっているとすれば、間欠導尿もしくは尿道カテーテル留置が必要となるでしょうか。

カテーテルの要否を考える前に、次のような疑問が浮かびます。
1. 人工膝関節手術をした患者さんが半年後に寝たきりとなってしまうのは異常事態です。寝たきりとなった原因は何でしょうか。
2. 残尿量は当初400ml程度ありましたが、療養型病床移動後は280ml、再診時は170mlと減少してきています。どうしてでしょう。そもそも、現在はどのようにして排尿を行っているのでしょう。

本人にどのように排尿しているのか訪ねてみたところ、尿意は自覚でき、排尿したくなったら、オムツからわき漏れしてしまわないように上向きに寝直してから排尿し、排尿が終わったらナースコールを押して、オムツを交換してもらっています、との事でした。

問題点が見えてきたでしょうか。整理してゆきましょう

寝たきりの原因
膝の人工関節手術をしたという事ですから、手術する前は膝の状態を除けばそれなりに元気に生活をしていた事が予想されます。そのような患者さんが、たった半年で寝たきりとなっています。何か問題が起こったのでしょうか。脳梗塞など寝たきりとなる疾患が発生したのかもしれません。しかし現在は車いすで外来に来られるほど回復しています。この点については、当然入院直後にはわかっていませんでしたが、脳MRIなど諸検査を行い神経内科医は低活動型のせん妄状態の可能性があり、全身管理を行いつつ回復を待つという方針となりました。避けられない寝たきり状態だったのか、もしくは寝かせきりの状態であったのかはわかりませんが、褥瘡ができたことをきっかけに当院に入院して治療が開始されたことは皮肉なところです。もし褥瘡ができない程度に介護が行われていたら、完全な寝たきりとして完成してしまっていたかもしれません。

神経内科で適切な投薬治療がなされ、積極的なリハビリ等の介入もあって、泌尿器科再診時にはせん妄は改善し、車いすでの生活が維持できる程度までADLは回復していました。レビー小体病として現在でも神経内科で経過観察されています。

排尿状態
せん妄状態の改善とともに、徐々に尿意を自覚して排尿を企図できるようになっていったと思われます。失禁が増加し残尿量は多少減ってきています。入院直後は導尿管理を受けていたため多少膀胱機能の悪化を回避できていたのかもしれません。しかし寝たままでの排尿を続けていたため、残尿がなくなるまでには回復をしていなかった様です。残尿があることで慢性細菌尿が持続していましたが、たまたまそれが悪化して肉眼的血尿をきたし泌尿器科再診の運びとなりました。

レボフロキサシン(LVFX、クラビット)を短期間使用し、加えて尿意あるときにポータブルトイレで排尿をするように、患者さんおよび看護師に指示しました。それにより翌日にはトイレで自排尿が可能となり、残尿も速やかに消失しました。

膀胱エコー

残尿なし

失禁もなくなり、2日で肉眼的血尿も改善しました。1週間後にウラピジルを中止してみましたが、排尿状態の悪化はありませんでした。

意欲の低下とADL低下の両方の要因が組み合わさって、尿排出障害を来していた患者さんでした。当然ある程度の排尿筋収縮力低下はもともと潜んでいたと思われます。状態の悪い患者さんを寝たきりと決めつけてしまうことの危うさを実感した症例でした。当然、内科での適切な全身管理があって初めてこの患者さんはトイレで排尿ができるまで回復することができました。そうでなければ尿道カテ-テル留置での管理となっていたでしょう。泌尿器科医であっても全身状態の評価をおろそかにしてはいけないということを再確認しました。