泌尿器科情報局 N Pro

教科書に載っていない“尿閉”の話3

3. 尿閉の予防

ここからは、尿閉の予防の話です。尿閉を完全に防ぐことはできません。脳梗塞で尿閉になるのはどうしようもありません。しかし、ちゃんと介護、看護をしていればおきるはずの無かった尿閉は、なるべく予防しないと行けません。そのためには、これまで出てきた排尿サークルの流れを止めない様に援助をすることです。認知症の患者さんが尿意が分からない、理解できない状態になってしまった場合は、尿意が無いか問いかけたり、尿意が無くてもトイレに誘ってみたりして、患者さんの尿意の代わりになってあげると、それだけで尿失禁が無くなったり、尿閉にならなかったりすることがあります。先ほどの血尿の写真の患者さんの様に、トイレでないと排尿できない患者さんも珍しく無いので、なるべくトイレへの介助を行いましょう。


トイレで排尿をさせる援助は、尿失禁のケアであり、尿閉を予防するケアになります。おしっこ出ましたか?と聞くだけではだめです。そろそろトイレに行きましょうと、誘導までしてください。

4. 尿閉の発見

次は尿閉をどのように発見するかの話をしてゆこうと思います。少し話が変わりますが、最近は尿道カテーテルを極力減らしてゆく様になってきています。ADLやQOLのためには、必要の無いカテーテルを使わないことは、とても重要なことです。ただ、残念なことにこのカテーテルを減らす動きの本当の理由は、院内感染対策の広まりのためです。


尿道カテーテルの適応は基本的には手術などの全身管理でどうしても必要な場合になります。昔は尿失禁で尿道カテーテルを使用していた時代がありましたが、オムツの性能が良くなった現在では尿失禁で尿道カテーテルは使用してはいけません。褥瘡では尿道カテーテルが必要と考えている専門家もいますが、私はほとんどの症例でカテーテルは不要と考えています。尿閉で尿道カテーテルを使用することも私は不適切だとはおもいますが、それは適切に導尿ができる病院での話であって、在宅であったり、ちゃんと間欠導尿をしてくれない病院では、いい加減に導尿管理をするぐらいなら尿道カテーテルの方がましですので、尿道カテーテルを選択せざるを得ません。ターミナルの患者さんでは、患者さんの置かれた状況ごとに、目指すものが違ってきますので、メリットとデメリットを考えて、つまりどちらが苦痛が少ないかを考えて、尿道カテーテルを選択する場合がありうるかと思います。


学会報告レベルではありますが、全国的に出血性膀胱炎が増加しています。これは尿道カテーテルを尿失禁に使わなくなったのも一因だと思っています。必要の無い患者にカテーテルを使用しないことは望ましいことですが、その裏でカテーテルが必要な患者を見逃さない対策を病院のシステムとして作ってゆく必要があります。


そこで、尿閉の患者さんを見逃さないためのスクリーニングを行う必要があります。一番シンプルな方法は、とにかく排尿状態を観察することです。適切な間隔で失禁無く十分な量の排尿ができていれば、問題がある可能性はとても低いと言えます。ただし、尿失禁は自排尿とは区別しないといけません。1回でまとまった失禁があればよいですが、失禁は必ずしも1回分とは限りません。何十回と排尿してやっと出した尿を見ているだけかもしれませんので、失禁があるから尿閉ではないと言うことはできません。そのような患者さんでは、尿意が分かって伝達できるかどうかや、失禁が無い時間がどのぐらいあるかなど、いろいろな状況をみて判断する必要がありますが、なかなか判断が難しいです。そのような患者さんに非常に有用な方法が残尿測定です。時代が進歩して、排尿もしくは失禁後に膀胱内に残った尿量を専用の装置で測定できるようになりました。


現在いろいろなメーカーから膀胱の尿量を測定する装置が発売されていますが、これが最初に普及したシスメックス社のブラッダースキャンBVI6100です。


ブラッダースキャンで入院患者さんの残尿量を測定して、残尿量が100ml以上を軽度残尿、400ml以上を高度残尿として、その頻度をグラフにしたものです。年齢とともに尿閉のリスクが高くなります。意外かもしれませんが、男女差はほとんどありません。


男性では年齢とともに尿閉のリスクがぐっと高くなりますが、女性ではそれほどでもありません。


年齢よりも影響が強いのが、ADLになります。バーサルインデックスというADL指標で分類すると、寝たきりに近づくに従って尿閉のリスクが高くなってゆきます。寝たきりの患者さんではすでに尿閉で尿道カテーテルが入れられた患者さんが除外されているので少しリスクが減っています。


以上から、残尿スクリーニングを行うべき患者さんとしては、排尿障害を起こす病気で入院した患者さん、つまり神経疾患での入院患者さん。そして高齢者、ADL障害、コミュニケーション障害のある患者さんなどです。先ほどお話ししたように、失禁なくトイレで排尿できる患者さんでは危険性は少ないので、そのような患者さんではスクリーニングは不要です。