特集/「木曽節」をテーマにした3つのオーケストラ曲


                        2004.11.23    岡崎 隆
         
 私はオーケストラにおける日々の演奏の傍ら、主に戦前を中心とした過去の知られざる日本の管弦楽曲の調査・発掘を続けています。私がなぜこのような作業を始めかと申しますと、毎日の演奏の中でふと、「日本のオーケストラはどうして、こんなにも自国の作品を演奏しないのだろう?」という、素朴な疑問を持った事がきっかけなのです。しかし、このあたりについては又、別の機会に譲ることに致しましょう。
 こうして発掘したオーケストラ曲の楽譜を、現在のオーケストラで演奏するための演奏譜の作成などを細々と続けるうちに、最近偶然にも「木曽節」をテーマにしたオーケストラ曲を、なんと3曲もたて続けに発見しました。
 私はこの偶然に驚くと共に、何か目に見えない糸に引っ張られているのかのような、不思議な想いを抱きました。そして、ぜひこれらの先人たちの作品を現代に甦らせたい、と強く思ったのです。折しも私の故郷・名古屋では、2005年に「自然との共生」を謳った愛知万博「愛・地球博」を控えており、雄大な自然の中から生まれたとも言える「木曽節」を主題にしたオーケストラ曲の演奏は、まさにタイムリーなものとなるのではないかと、現在実演の可能性を懸命に模索しております。

 須賀田礒太郎 (1907〜1952)

 まず1曲目は、須賀田礒太郎 (1907〜52)の「木曽節によるパラフレーズ」(1951)です。
須賀田は私のHPでも特集しておりますように戦前、数多くの作曲コンクールに入賞するなど、大いに注目を集めた作曲家でしたが、病弱だったこともあって、戦後は全く忘れ去られてしまいました。近年栃木県の田舎町の蔵の中から彼の膨大な自筆楽譜が入ったトランクがほぼ50年ぶりに発見され、大きな話題を呼びました。この「木曽節によるパラフレーズ」も、その際発見されたもので、NHKからの委嘱で作曲された「日本舞踊音楽集」に含まれる5分ほど作品です。常に大衆の求めるものを忘れなかった須賀田の、独特な華麗なオーケストレーションは、たいそう親しみやすい内容を持っています。

 高田 三郎 (1913〜2000)

 続く2曲目は、高田三郎 (1913〜2000)の「狂詩曲第1番」(1945)です。
今日、日本の合唱作品の中で最もポピュラーな「水のいのち」でよく知られる高田三郎ですが、その最初期に何曲かのオーケストラ作品を残している事は、現在ほとんど知られていません。
この「狂詩曲第1番」も、NHKアーカイブスの広大な倉庫に眠っているのを、高田氏ご遺族の依頼をを受け、このたび私が発見したものです。
 作品はやはり5分ほどの小品ですが、高田三郎独特の抒情に満ちており、フィナーレは壮大な「木曽節」のテーマで締めくくられます。なお高田三郎氏は名古屋・矢場町に生まれ、東京音楽学校に入学するまで東区・主悦町で育った、ということも書き添えておきましょう。

 山田 一雄 (1912〜1991)

 最後の3曲目は情熱的なタクトさばきで今日なお多くの人々の記憶に残る指揮者・山田一雄 (1912〜1991)が、その若き日に一気に書き上げた「交響的木曽」(1940)です。今回の3曲の中では現在最も知られている作品で、フルスコアで109ページという堂々たる内容を持ち、マーラー直弟子のプリングスハイムに教えを受けた山田の、渾沌とした中にも勢いが迸るオーケストレーションは、今日でもまったく色褪せる事はありません。最初に「ノーエ節」が呈示され、やがて「木曾節」の主題がそれに絡み付き、クライマックスでは両曲の主題がフル・オーケストラで高らかに鳴り渡る様は、まさに圧倒的!! この「交響的木曽」の演奏を聴いて触発された若き日の外山雄三が、「日本民謡によるラプソディー」を書き上げたというエピソードは、よく知られています。

 現在私は上記3曲の「木曽節をテーマにしたオーケストラ曲」を現代のオーケストラで演奏できるよう自筆譜の校訂を行ない、須賀田礒太郎・高田三郎作品については、このほど浄書スコアを完成致しました。自然の素晴らしさを歌い上げた「木曽節」は、過去の日本の作曲家の創作意欲を大いに触発し、これらの作品を産み出させたのです。
 私は上記3曲が今後、何らかの形で再演されることを心から願ってやみません。

               (名古屋フィルハーモニー交響楽団/コントラバス)



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